研究科長挨拶

石川 正俊 石川 正俊
東京大学 大学院情報理工学系研究科長

 今、情報科学技術の分野には、様々な風が吹いています。人工知能(AI)、ビックデータ、データサイエンス、IoT、センサネットワーク、サイバーフィジカルシステム、バーチャルリアリティ、情報セキュリティー、知能ロボット、自動運転、5Gといった未来の社会を形作る基盤的技術の整備と展開が求められています。その背景には、科学技術の基本構造の変化が存在します。旧来のアナリシスを基本とした「解く」科学、すなわち実証主義的帰納法による真理の探究とディシプリンの形成・深化を目指す科学技術に対して、シンセシスを基本とした「創る」科学、すなわち構成論的演繹法による価値の創造とディシプリンの展開・融合を目指す科学技術の必要性が急速に増しています。後者の科学は、問題が与えられているとは限らず、豊な発想の中から生み出される価値のある仮説を理論的または実験的に裏付けるアプローチで、情報科学技術の中でよく使われるアプローチです。新しい価値は、創る科学から生まれ、解く科学で深まります。

 新しい科学技術は解く科学と創る科学が相補的な協調関係の中で培われるものであって、そこに新しい学術の姿があります。情報科学技術が拓く未来は、そのような科学技術の新しい形に立脚した開拓者が創るものでなくてはなりません。何もないところに価値を生み出す力、誰の足跡もない先頭を牽引する勇気、要素還元主義や課題解決型のアプローチ、さらには研究開発のリニアモデルからの脱却が求められています。コンピュータとネットワークの進歩により、現代社会は情報科学技術に新しい社会的価値を求めると同時に、その発展の過程で、社会や人間を取り巻く情報環境もまた大きく変化を遂げようとしています。その中で、価値を創造する科学技術の新たな共通基盤としての情報理工学は、極めて重要な役割を担っています。そして今、情報理工学を社会にとっての知の基盤とするために、学問領域の枠を越えた新しい考え方や科学技術を産み出し、学術界や産業界において、新しい知を先導することのできる人材を育成することが必要であり、それこそが情報理工学系研究科の目標です。

 情報理工学系研究科は、コンピュータ科学、数理情報学、システム情報学、電子情報学、知能機械情報学、創造情報学の6専攻とソーシャルICT研究センター、情報理工学国際センター、情報理工学教育研究センターの3センターから構成され、情報理工学の幅広い知を結集し、そこから未来の新しい知を創造する力を持った人材を育成することを目指しています。さらに、学問としての情報理工学関連分野を深化させるとともに、様々な形で新たな応用展開をはかるというアナリシスとシンセシス両面から、新たな地平を拓くことを目指しています。

 近年、情報理工学系研究科は、情報科学技術の進歩を牽引すべく、新たな教育研究活動を推進しています。全学の連携研究機構として、次世代知能科学研究センター(2016101日設立)、数理・情報教育研究センター(201721日設立)、バーチャルリアリティ教育研究センター(201821日設立)、及び情報セキュリティー教育研究センター(201921日設立)を設立すると同時に、知能社会教育研究センター(仮称)の設立を計画しています。これらの連携研究機構は、当研究科が責任部局となり、他研究科等と連携して、全学の関連技術の教育研究を推進するための組織です。

 加えて、情報理工学系研究科が主体となって、いくつかの教育並びに研究プログラムが実施されています。ソーシャルICTグローバル・クリエイティブリーダー育成プログラムは、統合的な視野と独創的な発想を備え、産学官の各方面でグローバルに活躍するリーダーを育成する大学院教育プログラムです。情報および社会・経済システムの視点で、本質的な問題や可能性を発見する能力と技術を有する人材を輩出しております。また新たに、昨年から、卓越大学院プログラムの一つとして、知能社会国際卓越大学院プログラムを実施しています。このプログラムでは、情報技術・理論により急速に社会構造・価値が変化し続ける現・次世代において、情報を深化させ新規分野を創出する人材、およびそれと並び立ち、最先端の情報によりまったく新しい社会価値を創造する人材の養成を目指しています。一方、領域知識創成教育プログラムは、データサイエンティスト養成講座として、数理的手法や情報処理技術を駆使し、ビジネス課題解決能力を養成することで、大規模データから社会的価値の高い知識を引き出す人材の育成を目指しています。さらに、情報科学技術を活用する分野融合展開プロジェクトでは、情報通信技術(ICT)を非情報系分野に積極的に導入することにより、当該学問分野に効果的な手段を提供すると共に、そこから創出される新たな知見により、当該分野の飛躍的発展を企図しています。

 情報理工学系研究科はこのような活動を積極的に推進することにより、情報に関わる科学技術を極め、その進展に寄与するとともに、新しい社会の価値を創造する力を生み出す教育研究組織として、学生の教育と最先端の研究を進めて、将来の科学技術並びに情報社会を牽引していきたいと考えております。

令和元年 5月  

ISTyくん