プレスリリース

2023/12/14

因果律の壁を越える!次世代量子バッテリーへの挑戦~不確定因果順序が拓く新境地:充電のパラダイムシフトを実証~

重ね合わせの原理や量子もつれなどの性質を利用したエネルギー貯蔵における最先端の研究として、量子バッテリーは現在注目を集めています。しかし、従来のバッテリーと同様に、量子バッテリーの性能にも限界があり、これは量子力学の法則によって制約されているといわれていました。一方、近年、従来の量子力学の枠組みを超えて事象の因果順序にも重ね合わせ原理を持ちうるという仮説が提唱され、充填プロセスにおける量子重ね合わせの実現が期待され始めました。我々は、不確定因果順序を導入することで、従来とは一線を画す発展があると確信し、研究を進めてきました。


東京大学大学院情報理工学系研究科のYuanbo Chen(チェン ユーフォー)大学院生と長谷川禎彦准教授は量子開放系の一種である量子衝突モデルにおいて、不確定因果順序と呼ばれる新しい因果構造に由来する特異な効果を発見しました。また、この効果を活用した量子バッテリーの充填プロトコルを理論的に提案し、その役割と重要性を明らかにしました。
一方、共同研究を進めている北京計算科学研究センター(Beijing Computational Science Research Center:CSRC)のGaoyan Zhu(ガオイェン チュウー)研究員とPeng Xue(ペン シュエ)教授は光学実験を行い、我々の理論の検証に成功しました。
量子衝突モデルは量子系間のエネルギー転移を記述する物理モデルであり、通常、より多くのエネルギー転移には強い量子系間の相互作用が必要とされています。しかし、今回の発見はこれに反し、弱い相互作用でも強い相互作用と同様の効果をもたらすことが可能であることを示しました。

この物理現象は量子バッテリーの充填において大きな利点となり、従来の限界を超えるエネルギー転移と熱効率の向上を同時に実現することを示します。この成果は量子バッテリーの研究分野における重要な進歩であり、また、量子バッテリーの実装と開発に向けた新たな知見を提供するばかりでなく、様々な量子技術において新たな役割を果たすことが期待されます。

量子世界の因果順序を活用した効率的な充填方式
量子世界の因果順序を活用した効率的な充填方式

理論検証を行った量子光学実験装置
理論検証を行った量子光学実験装置

この研究成果についての詳細は【情報理工_プレスリリース_20231214】pdfをご覧下さい。

論文情報

雑誌名:Physical Review Letters
題 名:Charging Quantum Batteries via Indefinite Causal Order: Theory and Experiment
著者名:Gaoyan Zhu+, Yuanbo Chen+, Yoshihiko Hasegawa,and Peng Xue +同等貢献 *責任著者
DOI:10.1103/PhysRevLett.131.240401
URL:https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevLett.131.240401 

ISTyくん