「第105回公開講座の目的は何ですか」
武市正人 企画委員長に聞く

ロボットと創る未来社会を
一緒に描いてみませんか

 9月30日から5週連続で、文京区本郷キャンパスの安田講堂で東京大学公開講座が開かれる。105回を数える今回のテーマは『ロボット新世紀』。ロボットに関する学問の世界を多様な視点でとらえ、「5回にわたって、深化するロボットは敵か味方か、ロボットはどこまで人間に近づくかなどを通して、ロボットと創る未来社会を描いてみたい」と武市正人企画委員長(情報理工学系研究科長)は、その目的を披露した。

情報理工学系研究科知能機械情報学専攻
下山勲教授

――今回の公開講座の特徴は何ですか。

武市 最近のロボットの発展はめざましいものがありますね。癒し系のペットロボットから、歩くだけでなく駆け足もするロボット、トランペットを演奏するロボット、災害現場で活躍するロボットなど、新しいロボットが次々に登場しています。これからのロボットは、これまで蓄積した技術を生かして、私たちの活動の一部をサポートし、生活の質の向上に大きく役立ってくれるのは間違いないところです。

 いわば、未来社会は、人とロボットが共生する新しい社会。そこで「ロボットは今、そして、未来のロボットは」という視点から、『ロボット新世紀』という括りで総合的にとらえることにしました。

――1日1テーマで行われますが、興味をそそられる内容になっていますね。

情報理工学系研究科知能機械情報学専攻
下山勲教授

武市 1日分だけでも、とても重要な内容が盛り込まれていますが、技術論に偏るのではなく、他の分野からもロボットを見つめることにより、5回聞き終わると、ロボット新世紀という全体像が俯瞰できるようなストーリーを持たせた点が特徴です。その狙いは、高校生など若い人たちを惹きつけようという意図からです。

 ロボットという言葉は、チェコの作家、チャペックの戯曲の中に初めて出てきます。そのあと、アシモフがロボット3原則を提案して今日のロボットの基盤をつくり上げたことは、よく知られています。そこで、今回の講座では、「ロボットのあゆみ」から初回をスタートし、「ロボットは人間にとって何なのか」、「赤ちゃんはロボットをどのように認知するか」、「ロボットの右脳を創ってみよう」といったように、ロボットと社会・知能・未来学などと結びつけながら展開します。

 このように、今回の講座では、ロボットを技術面から解剖するとともに、人文社会学、経済学、情報学の側面からもロボットにスポットを当て、人とロボットの共生する未来社会の姿を、発表する側と来場者が一緒になって考え、発信する場にしたいと思っています。

科学&技術の楽しさを
若者たちに伝えたい

◆…『ロボット新世紀』の公開講座は、この夏に東大が立ち上げた新しいIRTプロジェクト(本ホームページ9月1日付既報の「ニュース」&「ニュースフォーカス」参照)を強力に後押しするものでもある。IRTプロジェクトは、ITとロボット技術を融合させて、掃除、食器の後片付け、ベッドメーキング、横断歩道を安全、安心して渡れる移動用ロボットなど、来るべき少子高齢社会に視点を置いて、高齢者を支援する技術・システムを生み出すのが目的だ。これによって、10年、15年後に自動車やコンピューターに次ぐ巨大産業の創出を目指している。

 10年というこのロングランプロジェクトを成功に導くためには、単なる技術の寄せ集めでは不可能で、東大の知(技術)をコアに、企業と共同で異なった領域の技術を融合させて取り組むまったく新しい研究体制を構築し、研究に着手している。今回の講座は、東大が蓄積したロボットに関する幅広い技術と社会学の知識・ノウハウをもとに、未来社会をどのようにしてつくり上げていくかを示す道筋とも言えるものだ…◆

◆…一方、科学に興味を持つ若者たちの間で、ロボットコンテストが大流行り。中学、高校、大学生だけでなく、大人たちも自らが設計し、組み立てたロボットと一緒になってゲームを楽しんでいる。コンテストで奮闘している若者たちは、日本の未来を科学技術で拓く貴重な“人財”である。「この公開講座で、まだ科学技術に興味を覚えていない若者たちに、そのおもしろさ、楽しさを示したいし、科学技術を大学で学びたいというきっかけになれば」と武市さんは期待している…◆

――ロボットに関する広範な話題を提供できるのも、総合大学だからこそ…。

武市 そのとおりです。今回は情報理工学系研究科が企画したもので、オール東大の幅広い分野の研究リソースをフルに生かして、若者たちが興奮するような場にしたい。パネル討論を用意したのも、一方通行になりがちなところを、双方向で話題を投げかけ合いながら考え、関心を深めてもらおうというためです。

◆…公開講座は春と秋の年2回開催を基本とし、多様なテーマで開講した。例えば、第100回(平成15年秋)は「未来を拓く」。それ以降は「はじまり」、「いま、倫理の時代」、「楽(らく)」、「人口」といったテーマを各研究科が企画し、実施した。この間のデータでは、講座すべてを聴講した人は400人から700人台、年齢層はどちらかといえば中・高年の人が多い。今回の講座でそうした状況を打ち破り、若者たちを惹きつけ、かつ多くの聴講者で安田講堂が一杯になるような、公開講座の新しいスタートにしたい―武市さんの委員長としての目がそう語っていた…◆

ISTyくん