──「サービス情報基盤」の確立へ──
分野融合の産学連携で10年視野に研究を
東大「サービスイノベーション研究会」が提言

産学のパネリストが活発な意見交換を行った(3月9日の研究会で)

 情報社会を前提として提供されるサービスに的を絞り、具体的で効果的な研究開発の方策を検討してきた東京大学産学連携本部の「サービスイノベーション研究会」(委員長:情報理工学系研究科 武市正人教授)は、「イノベーションのためのサービス情報基盤の確立に向けて」と題した提言をまとめた。2006年10月から“サービスを科学する”という視点に立ち、企業と連携して実施した研究活動を集約したもの。提言では、「サービス情報基盤」(Informatical Foundation of Services)の確立のためには、分野融合的に組織化した産学連携による組織体制によって、5年から10年を視野に研究開発を推進すべきと指摘している。

 3月9日、本郷キャンパスで産学連携による科学技術交流フォーラム「サービスイノベーション―サービス情報基盤の確立に向けて」を開催した。産学から230名が参加し、関心の高さを裏付けた。

 同研究会は、2年半にわたって、人と組織のあらゆる活動が情報システム・情報技術に直接的あるいは間接的に依存する社会、すなわち、情報社会を前提として提供されるサービスに絞って議論した。ここでは、日本経済の70%以上を占めるサービス主体の産業におけるイノベーションが社会を豊かにし、国際競争力強化の源泉を創出するとの認識に立っている。

講演する武市委員長

 主題に位置づけたサービス情報基盤は、情報社会におけるサービスに関するさまざまな現象を捉え、それを分析してシステムを実現するための方法論を体系化したもの。これを確立するには、調査・計測、分析・可視化、モデル化・予測、設計・最適化、設計・評価技術、システム構築技術などを研究する必要がある。そのために、既存の学問分野の知見をもとにした分野融合による研究を推進すべきとした。その研究領域として、①人間の心理・行動の理解、②大量データの取り扱い、③システムの複雑性の克服、④進化・変異への対応、⑤合意形成・制度設計の5つを取り上げた。各研究領域でサービスを対象にその概念を明確に定義し、手法を開発するのは、大学側のミッションだが、その場合、既存分野の研究資産の活用を図るべきとしている。

 たとえば、サービスイノベーションの創出を目指して、領域融合的な研究を推進する学内研究連携ユニットを組織している東大には、サービスイノベーションの基盤となる豊富な要素技術の蓄積がある。これらと新しい実践的な研究を行うことで、サービスイノベーションを主導する人材の育成を図り、さらに、方法論の体系化を進めれば、「サービス情報学」(Service Informatics)、あるいは、より広い「サービス学」(Service)と呼ぶべき教育課程の編成に結びつき、次代に伝える新たな学問として位置づけられるとしている。

図中の「融合研究領域」は、(独)科学技術振興機構研究開発戦略センターと文部科学省研究振興局基礎基盤研究課による「新興・融合分野研究検討報告書(2008年12月)をもとにしている。

 一方、大学の成果を社会に定着させるには、具体的にサービスを提供する産業界の取り組みも重要となる。その課題としては、(a)サービスの融合、(b)製造業のサービス化、(c)サービスの効率化、(d)情報技術のサービス化、(e)行政のオンライン化などが想定される。これら課題の解決のためには、サービス提供者や情報技術によってサービスを実現する情報システムの開発者の知見と経験が不可欠である。このため、サービス提供者・開発者と科学的方法論を追究する研究者が課題を共有し、研究開発の方針を理解し協力して、サービス情報基盤の手法を適切に適用して着実なイノベーションに結びつけることが重要である。こうした連携を深めるためにも、サービスの研究開発は、産学協同によって推進すべきであるとしている。

 これまでも、必要に応じて産学連携が行われてきたが、サービス分野は融合的な領域での連携が多いこと、目標となるニーズが大きく変化すること、顧客へのサービス提供と直結した研究開発体制が必要なことなどから、従来とは異なる産学連携や実施体制が求められる。このため、サービスイノベーションを創出するには、特に大学が持つ学術的で基盤的な技術や知識と、企業が蓄積している現場や実戦経験、応用技術といったそれぞれの強みを融合することが不可欠で、イノベーションのためのサービス情報基盤の確立を目指した研究開発を推進することが、サービスによる豊かな社会への科学技術の貢献になると結んでいる。

 この提言は、東大だけの問題ではなく、広く学界と産業界におけるサービスに関わる研究開発に、1つの道筋を与えるものとして注目される。

http://www.ducr.u-tokyo.ac.jp/service-innovation/

ISTyくん