これが「部屋型ロボットシステム」のイメージ
人とロボットが日用品をコンテナで受け渡し
東大IRT研究機構が10年内を想定し開発

 「手を拭きたいので、ハンカチを取って」―。高齢者や体の不自由な人が指令を出すと、ロボットが日用品を整理して入れたコンテナケースを手元まで運んできてくれる。「これで美味しいお菓子が食べられるわ。アリガト…」。

 10年後には、人とロボットが対話をしながら、日用品を整理して収納したコンテナを受け渡しする部屋型ロボットが活躍しそう。そうした姿をイメージしたロボットシステムが開発された。東京大学IRT研究機構のIRT環境研究部門が打ち出した日用品アクセス支援ロボットシステムである。

日用品アクセス支援ロボットシステム
日用品アクセス支援ロボットシステム

 このロボットシステムの概念は、ロボットが2本足で歩いたり、車輪で動きながらモノを運ぶシステムとは根本的に異なる。日用品を整理して入れたコンテナを、天井から吊り下げたロボットの手で運びながら、天井裏などに設けた棚型の倉庫に収納するスタイルだ。高齢者が「あれがほしいな」と思ったものを、ロボットの手がコンテナごと選んで届けると、その中から必要なものを取り出す。部屋全体がロボットシステムになっている点が特徴で、IRT研究環境部門長の佐藤知正教授は「ロボットらしくないロボットシステム」と語っている。

 コップや歯ブラシ、シャツ、薬箱、化粧品などの日用品をロボットが人と同じように扱うことができたら、ロボットが家庭内で活躍する場はグーンと広がる。そのためには、ロボットが人と同じように紙コップもガラスコップと同様にソフトに扱うことができるようにすることが必要。それを目標にした研究も多方面で行われているが、今回は視点を変えた。

インテリジェントコンテナ(iコンテナ) 天井移動型コンテナ運搬ロボット
インテリジェントコンテナ(iコンテナ) 天井移動型コンテナ運搬ロボット
※画面をクリックして拡大画像をご覧下さい

 すなわち、人とロボットが互いの長所を生かして日用品を扱えるようにするために、モノそのものを直接扱うのではなく、箱状のインテリジェント・コンテナ(i コンテナ)にモノを整理して収納し、コンテナに入れたモノを扱うというアイデアを採り入れた。モノの効率的な収納や検索が可能になるように、コンテナケース単位で複数のモノを収納する方法を採用したのだ。コンテナの大きさは奥行き370×幅270×高さ190mm。コンテナ内のモノの認識、管理には、Suicaなどに使われている、電波による個体の識別技術RFIDを用いた。ID情報を埋め込んだタグを利用し、無線通信によって情報をやり取りすることで、何を収納したか、どこにあるかを、コンテナの前面に付けた液晶表示デバイスを通してチェックできる。また、コンテナケースには人が持ちやすいように取っ手を、ロボットには持ちやすいような機構を取りつけ、両者それぞれがケースを運搬しやすいような工夫をしている。ロボット自体は、天井を上下左右に自在に動ける独自の機構を搭載しているので、人の生活空間を邪魔せずに移動、運搬できる。

 必要なモノを容器に入れて扱い、管理するという考え方は、産業用ロボットの分野で採用しており、産業界で成功している具体例を家庭の部屋に持ち込んだ。RFIDタグを活用した高度な物品管理技術と、iコンテナを人、モノ、ロボット、情報の仲介役として利用する部屋型ロボットシステムは、次世代の人、モノ、居住空間の新しい形を提案するもので、モノがあふれる現代の居住環境と生活支援に革新をもたらすと期待される。

 佐藤教授は「コンテナのバリエーションとして、ジュースなどの飲み物を入れた冷蔵庫コンテナや、家計簿、鋏、セロテープなどを収めるコンテナなどはすでに開発し、揃えたので、今後は、人とロボットが音声などで対話をしながら、コンテナをスムーズに受け渡す実証実験に移りたい」としている。

ISTyくん