触っていないのに、触った感覚が生じる
篠田研究室が超音波で触覚ディスプレイ
皮膚の表面に力を感じる性質を積極活用

手の位置によってカーソルを操作する、3次元ブロック崩し。
手の位置によってカーソルを操作する、3次元ブロック崩し。ボールがカーソル(手)に当たった瞬間に触覚を提示する。手の位置は2台のWiiリモコンによって3次元的に計測している
超音波によって紙片が<br>押し上げられている様子。
超音波によって紙片が
押し上げられている様子

 システム情報学専攻の篠田裕之 准教授らは、空間中で何も触っていないのに触っている感覚が生じる超音波触覚ディスプレイを開発した。超音波発振子(スピーカー)を多数個並べ、発振子を駆動するタイミングを調整することによって空中に超音波の強弱の分布をつくり、その空間を手で探ると、皮膚の表面に圧力が感じられるようにした。超音波音響放射圧という現象を利用したもので、特殊な装着具を用いることなく触覚を提示できるのが特徴。映画「スターウォーズ」で描かれた、空中に浮かびあがってくる「レイア姫」にも手で触われるようになる。3次元ホログラフィーやHMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)による映像提示と組み合わせると、3D映像の操作や臨場感の高いVR(バーチャルリアリティ)空間の生成に効果的。映画やゲームの新しい映像づくりや、製品の設計にも生かされそうだ。

 篠田准教授と岩本貴之さん(現キヤノン)、星貴之(情報理工学博士)さんら篠田研究室が開発したディスプレイは、超音波がモノに当たると力を発生する音響放射圧という性質を利用している。これは超音波の強度が高くなると現れる現象で、研究室ではこの現象を触覚として応用できないかと発想した。星さんらは超音波発振子をアレイ状に324個並べた。各発振子から40KHzの超音波を放射し、発振子を並べた面に対して垂直方向約20cmの高さ(位置)に、円錐状に力を1点集中させる。その位置に手をかざすと、ほぼ1g程度の力が感じられた。

 超音波を集中させるのに用いたのが、フェーズドアレイという制御法。集中させたい位置で超音波振動の正負が揃うように、距離に応じてあらかじめ駆動タイミングをずらしておく方法である。駆動タイミングのずらし方を変えることで、力を感じる位置を自由に変えられるため、手の位置を測っておいて、その位置に力をフォーカスすることもできる。また、力の出る位置は1点だけでなく、広がりを持ったパターンをつくることも可能で、立体映像に合わせた触覚を提示できるのも魅力だ。

 触覚は、実際にモノに触ってはじめて生じる感覚で、視覚や聴覚とは性質が異なる。VRの分野でも触覚ディスプレイ研究が行われているが、いずれの方法も何かしら物体を触ることで触覚を提示している。それに対し、空間中に触っていないのに触った感じが出る今回の手法は、多くの使い方が期待される。たとえば、3次元ホログラフィーや凹面鏡でつくった擬似的な映像に今回の超音波触覚を重ね合わせると、その映像を手で触れるように感じられる。好きなゲームキャラクターといっしょに遊んだり、出来上がりを実寸大で確認しながら、製品の設計や修正をしたりするのに使えそうだ。課題としては、発振子を個別駆動するための回路構成が複雑になる点と、まだ出力が弱い点である。回路の効率化などを進め、実用化の道を探っていく考えだ。

ISTyくん