電子機器の複雑さを計る「物差し」を開発
数式モデル:ビットメモリーシステムを提案
津村准教授、上下限値の設定で適正設計

 システム情報学専攻の津村幸治 准教授は、電子機器の設計に寄与するビットメモリーシステムの概念を提案した。設計した電子機器の能力(複雑度)が過剰設計になっていないか、逆に不足していないかを検証する“物差し”となるもので、企業にとって製品開発を見直す有力なツールになりそうだ。

 通常、信号処理をする電子機器は入出力と記憶をもつダイナミカルシステムとみなせるが、ビットメモリーシステムというモデルを用いることにより、そのダイナミカルシステムの複雑さを計ることができる。ダイナミカルシステムの記憶変数を連続した値ではなく、0、1、2、3といった飛びとびの値に置き換えたものをビットメモリーと呼んでいる。このモデルと、複雑さの内容を調べたい通常のシステムに同じ入力信号を入れて比較した場合、出力値が違ったとすると、両システムの間で誤差が生じたことになる。この誤差の大きさが、ある許容範囲内に入るという制約条件の下で、ビットメモリーシステムに必要とされるビットメモリー長は何ビットかを弾き出す。つまり、計りたいシステムの複雑さを、ダイナミカルシステムとして許容範囲のなかで同等とみなせるビットメモリーシステムの、メモリーのビット長で表現するのだ。

サン・マイクロシステムズでの様子 マイクロソフトシリコンバレーオフィスの前で
Pは入出力を持つ通常のダイナミカルシステムであり、記憶を担うメモリー x は連続な値をとるものとする。一方は、離散値のメモリーiで置き換えたものである。Lはビット長を表す。 近似問題は、同じ入力信号uに対するPとの出力信号の誤差eを評価する。誤差eを閾値内に抑えるのに必要なビットメモリー長を求めるのが、最小ビットメモリー長問題である。

 津村准教授の興味の対象は、計りたいダイナミカルシステムから、上の意味で同等なビットメモリーシステムの最小ビットメモリー長を見いだすことである。すでに最小のビットメモリー長の上限(上界)については導き出すことに成功していたが、今回は数式モデルを新たに工夫することにより下限(下界)を導き出した。その結果、多く見積もっても10ビット以下といった上限レベルだけでなく、少なくともビット長が4ビット、あるいは6ビット必要とわかるので、上限と下限の値から設計中の電子機器のビットメモリー長が不足していないか、過剰設計になっていないかなどを判定できる。少なくとも6ビットが必要と理論的に判明している信号処理系に、4ビットのメモリーしか持たない回路で適応させようとしても性能的に無理なことがわかり、逆に8ビットの回路を持ち込もうとするとムダになるのが事前に判定できるので、システムの適正設計に役立つ。ビットメモリー長を多くすると、高精度化が可能になるが、コスト、計算時間を考えると最適とは言い難い。そこで、ある範囲内と有限に性能を収めることで、コストパフォーマンスに優れた機器開発が行えることになる。

 今後、ロボットの普及に伴い、通信回線を通して制御するニーズが増えてくることが予想されるが、ロボットシステムなどに複雑なフィードバック制御機器を組み込んだときの複雑さを計る物差しにもなり、広範な利用が期待される。

ISTyくん