ナイロン繊維の伸縮性を生かしたディスプレイ
知能機械情報学の下山研が導電性材料で
曲げ強度を大幅に高めたタッチ入力デバイスも

 知能機械情報学専攻の下山勲教授らの研究グループは、導電性高分子材料「PEDOT:PSS」を用いてユニークなデバイスを開発した。ナイロン繊維に塗布して機械的強度を高めたディスプレイと、曲げ強度が強い透明なタッチ入力デバイスで、携帯電子端末など具体的な応用が見えてきた。

 ナイロン繊維の持つ伸縮自在の性質を利用したディスプレイは、博士課程の高松誠一さんが考案した。柄のエッジ部分に糊を塗布することで染料がにじまないようにする、手染め友禅の技法を参考にしたもの。ナイロンのエッジ部分にMEMS技術でフォトレジストとして用いられるKMPRを塗布し、そのあとでPEDOTを塗った。エッジ部分はKMPRで覆われているのでPEDOTは付かない。こうした方法で目的とする形(表示パターン)をPEDOTで染め、最後にKMPRを洗い流すプロセス。今回はあらかじめ決めた画像の形をPEDOTでつくり、画像形成ができることを確かめたが、通常のディスプレイと同様に、多くの画素をスイッチングして画像を表示することが可能だ。カラー化についても、現在はPEDOTの薄い青から濃い青への色変化にとどまっているが、PEDOT以外の材料を塗布して緑を出すことに成功している。今後は赤を出してRGBの3原色を目指す。

 ディスプレイに機械的な曲げや伸縮に強い特徴が加わると、画面の拡大など面白い使い道が広がる。この目的を実現するために、コイルスプリング構造のナイロン布を基板に使い、配線と画素にPEDOTを採用した。この結果、従来のディスプレイに使われている材料(金属薄膜)の配線部分と比べて41倍、画素部分は10倍ものひずみに耐えることを確認している。

伸びるディスプレイのコンセプト ディスプレイが伸びている様子
伸びるディスプレイのコンセプト ディスプレイが伸びている様子

 もうひとつのタッチ入力デバイスは、修士課程の村木大仁さんの発案。PEDOTを使用したのは、透明性、機械的曲げ強度を持たせるため。タッチ入力検知センサーとして使われているITO薄膜では、折りたたむほどの変形で亀裂が生じ、断線する恐れがあったが、これらの問題点を解決した。この入力デバイスでは、PEDOTをひずみセンサーとして利用したのがポイント。タッチ入力によりセンサーシートが変形することでPEDOT薄膜がひずみ、ひずんだ大きさに比例した抵抗値の変化を計測し、タッチ入力を検知する仕組みだ。

 同タッチ入力デバイスは、PET(ポリエチレンテレフタレート)基板上にMEMS技術で厚さ130nmのPEDOT薄膜を製作した。センサーのサイズは4×5㎜角で、長さ20㎜、幅300μmの抵抗素子。PEDOTは濃青色だが、薄膜化すると透明になる。可視光での透過率は平均92%と高く、曲率半径5㎜まで曲げる実験を1Hzで繰り返し行ったところ、ITO薄膜は10回の曲げ伸ばしで断線したのに対し、PEDOT薄膜では1000回の曲げ伸ばしに耐え、抵抗値の増大も1.3倍にとどまった。この成果を受けて試作したセンサーアレイ状のデバイスで平面、曲面上でタッチ入力が可能なことも確かめた。

 PEDOTは有機EL、有機半導体などに広く使われ、安価で大面積に成膜できる特徴があり、新たな用途が開かれる期待が出てきた。

フレキシブルタッチ入力デバイスのコンセプト 製作したひずみセンサーアレイ
フレキシブルタッチ入力デバイスのコンセプト 製作したひずみセンサーアレイ

 

ISTyくん