「Live E!」プロジェクト、海外展開へ
ニュージーランドや中国で稼働を目指す
気象情報をセンサーネットワークで観測

 電子情報学専攻の江﨑浩教授らがシステム化した「Live E!」プロジェクト(代表:江﨑教授)が海外で動き出す。主要な場所に設置したセンサーで地域の気象情報を捉え、防災など公共サービスに活用したり、ヒートアイランド対策などに使うものだ。すでに、東京、倉敷市(岡山県)、タイなどで気象センサーネットワークが稼働しているが、新たにニュージーランドや中国などで同様のネットワークを構築し、気象情報の収集、活用を目指す。

 「Live E!」は、地球(Earth)に関する生きた(Live)情報が自由に流通するネットワークを形成し、情報を共有する基盤づくりを目指したプロジェクト。江﨑教授のほか、慶應義塾大学、奈良先端科学技術大学院大学、広島大学などの研究者で結成した「WIDEプロジェクト(www.wide.ad.jp, 代表・慶應義塾大学教授 村井純氏)」が中心となって推進している。その具体化第一弾となる気象センサーネットワークは、温度、湿度、雨量、風向、風速といった気象データをリアルタイムでつかみ、防災などに活用するのが狙い。東大が技術およびプロジェクト全体のヘッドクオーターの役割を担う。

倉敷市 倉敷芸術科学大学 でのセンサ設置
倉敷市 倉敷芸術科学大学 でのセンサー設置
気象センサーネットワークをニュージーランドにも構築へ
気象センサーネットワークをニュージーランドにも構築へ
(上の画像をクリックすると、大きい画面でご覧になれます)

 2005年5月から活動を開始して以来、日本、台湾、フィリピン、タイ、インドネシア、カナダにセンサーネットワークを構築し、設置したセンサーは90台近くに達している。「Live E!」プロジェクトに最も積極的なのが倉敷市。市内の中学校に30台近いセンサーを置き、局地的な気象状況の変化をオンラインで把握できる仕組みをつくった。倉敷市の場合、市全体をカバーしているアメダスは1個しかなく、集中豪雨などの情報をつかむには十分でない。特に、集中豪雨によって出された注意報や警報にもとづいて、住民に対して小中学校など公共の施設に避難勧告を出すことが多いが、同市では、避難先となる小中学校が洪水に見舞われるケースが過去に発生しており、懸案とされていたという。防災対策上、的確な情報を掌握する必要があり、今年の夏からLive E !プロジェクトのセンサーネットワークが実サービスシステムとして稼働を開始した。 本システムは、すでに岡山全県に拡大展開することが決定しているという。

 こうしたシステムをモデルに、ニュージーランドにも同様のネットワークを敷く計画が進行している。同国はタイなどと同じく農業利用のための温度情報管理に役立てていく計画という。また、今夏、中国の西安で「Live E!」に関するシンポジウム(東京大学 江﨑研究室がホスト)を開いたところ、「きわめて好感触を得た」(江﨑教授)ことから、今後、中国をはじめとするアジア諸国にもパートナー組織を拡大していく考え。アジア諸国と同様に、フランスも興味を示しているという。東京都港区内でも、主要5ヵ所にセンサーを置き、気象データを中心にビル管理データなど広義の環境データを格納できるデータベースを構築したほか、数十台の高密度センサー網を設置する新しい計画も動いている。

 現在は自治体などと協力して、都市の一部にスポット的に気象センサーを配置し、ネットワークを構築している段階だが、他の自治体との連携が進めば、点から線、線から面への展開が期待でき、広域の気象情報管理も可能になる。また、気象センサーだけでなく、CO2センサーによって環境状況を観測する海外共同プロジェクトも動いており、多様な観測網構築に有力な手段を提供するものになりそうだ。 さらに、インターネット自動車プロジェクト(WIDEプロジェクト)との連携も進められている。

 「Live E!」は、小中学校、高校、大学などで教育素材として使えるデータを提供する。特に、大学ではリアルタイムのシミュレーション教材として注目され、アジア各国の大学のコンピューターサイエンス学科が興味を示しているという。また、災害情報など公共サービスとして利用できるし、産業活動に深い関連を持つCO2排出削減など、ビジネスに役立つ情報収集もできる。このため、同プロジェクトには国内の大学、高校、小中学校、自治体のほか、多彩な業種の企業が協力している。

ISTyくん