関節機構や3次元形状のモデル化に新手法
知能機械情報学専攻の山根准教授ら
アニメ、CGの新しいキャラクター作成に有効

 人間が普通に服を着たままで動いたり、踊ったりする様子を複数のカメラで撮影し、この画像をもとに運動の計測と関節構造の推定が同時に行える新しい方法が登場した。知能機械情報学専攻の山根克 准教授らが開発したもので、3次元表面形状データとテクスチャ情報から骨格構造が得られるため、あらかじめ対象のリンク構造を用意することなく、関節構造をモデル化できる利点がある。これらの有効性を実際に人間の動きに適用して確かめた。この手法を使うと、人間だけでなく、アメーバのような微生物や軟体動物などの予測しにくい動きもモデル化できることから、アニメーションやCGに使う創造性の高いキャラクターの作成などに効果を発揮しそうだ。

 人間の運動を計測する場合、再帰反射性のマーカーを使った光学式モーションキャプチャーが用いられるケースが多いが、山根准教授らは、マーカーを使わずに、複数のカラーカメラで動きを撮影することで3次元表面形状が得られる視体積交差法を採用した。視体積は、人間の存在する3次元領域(多角錐体状の空間)のこと。これは撮影した画像ごとに存在するので、すべての画像の視体積の交差(積)を取ることにより、人間の3次元表面形状を求めることができる。この方法で得たポリゴン(多角形)データをもとに、Reeb Graph(曲面をいくつかに区切り、各部の接続関係をグラフで表す手法)を用いて仮想的な関節位置を配置し、複数の姿勢データと比較することによって不要な仮想関節を取り除いて、実際の関節構造を推定できるようにした。また、テクスチャの情報を使うことでひねり角が計測でき、従来の細線化によるモデル化では困難だった球面関節のモデル化も可能になった。

カメラ画像(左上)。視体積交差法により得られた3次元形状(右上)。
Reeb Graph生成のもととなる関数値の分布(左下)。仮想関節を配置した様子(右下)
カメラ画像(左上)。視体積交差法により得られた3次元形状(右上)。
Reeb Graph生成のもととなる関数値の分布(左下)。仮想関節を配置した様子(右下)

 光学式モーションキャプチャーは、光を反射するマーカーを体に取り付け、複数のカメラで撮影してマーカーの位置を得ることで全身の動きを計測するシステム。動きを精度よくとらえることができ、リアルタイムの計測が可能という利点がある。ただ、光を使うので、整備されたスタジオなど使用場面に制約がある。

 一方、物体の3次元形状を必要とする場合は、マーカーを用いないモーションキャプチャーが使われる。これに視体積交差法が使われるが、カメラの数が少ないと精度が落ちる、計算量が多いなどの欠点がある。また、マーカーレスモーションキャプチャーのデータを細線化し、関節モデルや姿勢の推定を行う研究もある。骨に相当する部分だけが残ったような線状の図形にするものだ。この細線化したモデルをあらかじめ用意している、人間の動きを仮定したリンク構造と照らし合わせて推定するが、細線化すると、実際の動きを表現しにくくなる。腕の動きはつかめても、手の動きまではわからないといった課題があり、球面関節を表すには不十分とされていた。

 新手法は、こうした従来の手法の課題を解決するもので、撮影場所を選ばない、人間や微生物など関節モデル化の対象範囲が大きく広がり、新しいキャラクターづくりに役立てられるといった特徴がある。「今後は、モデル化の精度や安定性の向上などに力を入れたい」と山根准教授は語っている。この研究は、NEDOの産業技術研究助成事業、科学研究費補助金の基盤研究の支援を受けて行った。

ISTyくん