IPv6のネットワーク記録更新が意味するもの
10Gbネットワークの本格的な実用時代を開く
平木教授ら研究チーム、次の目標は10Gb超

インターネット速度記録の認定証 インターネット速度記録の認定証

 世界が10Gb(ギガビット)のネットワークをフルに使ってデータ通信する時代がまもなく到来する。情報理工学系研究科の平木敬教授らを中心とする国際共同研究チームが、昨年12月に行った次世代インターネットプロトコル「IPv6」のインターネット速度記録を、米国学術ネットワーク組織のInternet2が認定したため。この記録は10Gbネットワークを利用したインターネット最速記録で、日本、米国、欧州を10Gbネットワークで結び、3万kmに及ぶ長距離のデータ転送(メモリー間通信)によって確認した。「1世代前(IPv4)の実験で、画像や文字などをディスク間で通信することに成功している。今回はメモリー間通信ながら、実際の画像や文字データを10Gbネットワークに乗せて通信する時代を開くもの」と平木教授は強調している。

 平木教授らの研究チームは、2004年から長距離TCP(トランスミッション・コントロール・プロトコル)通信研究をスタートさせた。現在のオフィス環境は、イーサネットを使ったLANが主体。その通信プロトコルとして使われているのがTCP/IPで、通信したい拠点を決めるだけでデータ転送ができる特徴がある。

 研究チームは昨年12月30、31の両日、東京から米国シアトル、シカゴ、オランダのアムステルダムの3ヵ所を経由し、シカゴ、シアトル、東京に戻る3万km(正式には3万2372km)の間にIPv6の10Gbネットワークを構築し、東京に設置した2台のパソコンでデータ転送速度を計測した。その結果、毎秒9.08Gbのデータ伝送に成功、これまでの記録を更新した。これは10Gbネットワークを99%利用する、極限に近い高効率化によって初めて実現した。

ネットワークの経路
記録を達成した今回のネットワーク経路。東京、シアトル、シカゴ、アムステルダムを結び、東京に置いた2台のパソコンを使い、データを受け渡して計測した

 この記録更新には、平木教授ら東大グループが開発した2つの技術が大きく寄与した。TCPは遠距離では性能を出しにくいといわれてきた。ネットワーク中では、中間スイッチや受信サーバーでパケットロスが発生しやすく、いったん発生すると回復がむずかしい。それを解決するために、パケット中の1ビットを2つの層を協調させて送ることでパケットロスを極小化する「レイヤ間協調最適化技術」を開発した。さらに、プロセッサー(CPU)の負荷を下げて、その性能を高度に発揮させる手法を取り入れた。具体的には、通信時にユーザーメモリーからカーネルメモリーへのデータのコピーという処理をなくし、プロセッサーの使用率100%の状態(プロセッサーの処理性能が止まってしまう状態)を防ぐ「ゼロコピーTCP技術」を開発、これをTCP通信に初めて適用した。加えて、サーバーの高速化技術も大きく功を奏した。

 これまで、同研究チームは、長距離TCP通信研究で世界に先駆けて速度記録を更新してきた。「われわれのチームがいつもリードしているので、技術的にやさしいのではないかという誤解をもたれているところがあるようだが、決してそうではない」と平木教授。非常に競争が激しく、世界の主要な大学や研究機関がトップの座を奪おうとしのぎを削っている最先端の研究領域であるにもかかわらず、世界トップの座を維持しているのは「ライバルよりも一歩先を行く技術を持っているから」と自信を示す。今回のデータ転送速度は、10Gbネットワークを用いる事実上の上限性能と位置づけており、10Gbを超える次世代の研究でも世界をリードしていく考えだ。

 10Gbネットワークをフルに活用する技術が開発されたことによって、DVDと同じデータ量(4.7GB)がディスク中にあれば、4.1秒で送れるし、1.5GBのHDTV映画なら6本分を送れる。映画1時間分だと10分で転送でき、マルチメディア情報を高精度に扱う道が開かれる。また、天文学、環境科学、バイオサイエンス、高エネルギー物理といった地球規模の科学技術研究の推進に大きな弾みがつくことになる。

ISTyくん