東大・産業界連携の「IRT研究機構」発足
新産業創出の10年プロジェクト実現に拍車
実践通した課題解決型人材育成も視野に

「IRTプロジェクトの先頭に立つ」と小宮山総長 「IRTプロジェクトの先頭に立つ」と小宮山総長

 東京大学が全学を挙げて新産業の創出を目指してスタートしたIRTプロジェクト。その中核拠点となる「IRT研究機構」の全容が18日、武田先端知ビルで開いた同研究機構発足記念シンポジウムで明らかになった。IRT研究機構は総長室直轄の組織で、機構長に下山情報理工学系研究科長が就いた。東大の“知”、社会の“ニーズ”、企業の“産業化力”という三位一体化によって、新しい産業の創出を具体化する組織で、情報理工などの教授らとトヨタ自動車など企業7社の研究者を含む80名体制でスタートした。6つの研究、2つの拠点形成活動を推進する。

 東大は、2006年度から10年計画で科学技術振興調整費による先端融合領域イノベーション創出拠点「少子高齢社会と人を支えるIRT基盤の創出」という壮大なプロジェクトを開始した。これは人口減少による労働力不足や、高齢者率の増加に伴う社会保障負担の増大、家事介護負担世帯の増加といった少子高齢社会の課題を、サイバーワールドのIT(情報技術)とリアルワールドのRT(ロボット技術)を融合し解決するのが目的。少子高齢社会は、日本が国際競争力を持つ自動車、家電、医療、アミューズメント、エンターテインメントといった広範な産業に多大な影響を及ぼす可能性が高い。これを回避し、新産業を創出するには、それを実現するのに欠かせないコア技術の確立が必要で、このミッションを積極的に推進する組織としてIRT研究機構を新設した。

 IRTプロジェクトでは、10年後には自動車、コンピューター産業に続く国際競争力のある1兆円規模という巨大なIRT基盤産業の創出を目指している。それを可能にするには、大学、産業界単独、あるいは大学・研究室と企業1社が組んだ共同研究体制ではとうてい不可能で、大学の“知”と産業界の持つ“産業化力”を総合的に融合し、社会のニーズにフィットしたものを見いだすかがきわめて重要である。そのために、研究科、学部の枠を超えて東大が保有している豊富なロボットテクノロジーやIRT制御などの広範な技術シーズと、産業界が得意とする技術力を融合して取り組む体制をつくった。

IRT研究機構の組織図 巨大新産業創出を目指すIRT
IRT研究機構の組織図 巨大新産業創出を目指すIRT
※画面をクリックして拡大画像をご覧下さい

 具体的には、IRT環境、IRTシステム、IRT制御、サイバーインターフェース、IRTデバイス、IRTコンテンツの6研究部門と、教育・国際連携、知財・制度改革の2推進部門の8部門で構成した。ここに東大から情報理工、工学、情報学環などのほか、内外の大学・研究機関、トヨタ、オリンパス、セガ、凸版印刷、富士通研究所、松下電器産業、三菱重工業の企業から、多彩な専門知識を持つ研究者が参加し、広範な“知”を集約してIRTイノベーションの実現を目指す。産学が出口を見据えて研究の初期の段階から対等な立場で協働する体制は、新しい産学の連携モデルとしても注目される。

 加えて、研究を推進する中核には博士課程を修了した国内外の若手研究者を据え、実践的な体験を通じて課題解決を実現する能力を備えた人材の育成を図る考えだ。

 IRTイノベーションが最大限に達成された場合の社会経済効果は、(財)機械産業記念事業財団によると、2025年時点でおよそ430万人の不足が見込まれる労働力市場全体の約350万人相当を代替する。年間10兆円に上る老人介護給付費を約2兆円削減し、1.5%減少する労働力率を2.2%浮揚させる効果が期待できると試算している。IRTプロジェクトは、その一端を担うことになる。

下山機構長 下山機構長

 シンポジウムのオープニングスピーチで小宮山総長は、自ら提唱している「課題先進国・日本」を引き合いに出し、日本が抱えるエネルギー・資源、環境汚染、少子高齢社会といった課題は先進国共通の問題。これらを日本が解決できれば、世界のデファクトスタンダードになりうる。IRTは課題“解決”先進国・日本を実現する有力な手段で、私はその先頭に立ってリードしていくと宣言した。

 下山機構長は大学と産業界、社会と大学がキャッチボールしながら、人口の減少、高齢者率の増加、世帯構成の変化という少子高齢社会のクライシスを、IRTイノベーションによって解決する道筋を見いだしていきたいと強調。来賓として招かれた森口泰孝氏(文部科学省科学技術・学術政策局長)は、「このプロジェクトが科学技術の模範的な例になることを期待する」と述べた。

ISTyくん