鉄筋・鉄骨造の構造物の安全性評価に新手法
外的な力のばらつきの影響を最適化理論で解析
寒野講師らが共同開発、1回の計算で可能に

 情報理工学系研究科数理情報学専攻の寒野善博講師と京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻の竹脇出・教授は共同で、鉄筋コンクリート・鉄骨造などの構造物が受ける力(地震などの力)や構造物自体の強さ(剛性)が正確に予測できないとき、全体としてどのように変形するかを計算し、解析する手法を開発した。半正定値計画法と呼ばれる最適化理論を駆使したもので、この解析結果を設計に取り込めば、原子力発電所をはじめ、構造物の安全設計に寄与するとみられる。この成果を12月12日から15日まで、神戸国際会議場で開かれる『最適化の技術と応用に関する国際会議「ICOTA 7」』で発表する。

 柱や梁、ブレース(斜材=筋交い)などを骨組みにした鉄筋・鉄骨造の構造物が外部要因の力で影響を受けた際、構造物全体としてどのような振る舞いをするかを予測できれば、安全設計に大きく役に立つ。外部からかかる力によって構造物が変形する量を精度よく計算、解析し、その結果が想定される範囲に収まり、力学的に要求される基準を満たしていれば、設計に反映されることになるので、解析は設計のプロセスの重要な要素となっている。

 これまでは、地震や雪の重みなどにより、構造物にどのような力がかかるかわからないため、ある荷重を設定して変形量を計算していた。また、柱や梁の実際の剛性も、施工誤差があったり損傷を受けたりしているために、正確にはわからない場合が多い。この場合、構造物に加わる荷重や構造物の剛性を数十、数百パターン選んで、それらをすべて計算すると、詳しい結果が得られる。しかし、計算時間が膨大になり、計算コストがかかるうえ、その結果を設計図に反映して建設すると、コンクリート壁の厚さが厚くなるとか、柱の数が増えるといった過剰設計になる可能性がある。

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構造物に作用する外的な力(左図)と変形の様子(右図) 変形量のばらつきの様子を表す楕円形
構造物に作用する外的な力(左図)と
変形の様子(右図)
変形量のばらつきの様子を表す楕円形

 そこで、寒野講師らは、半正定値計画法を用いた最適化理論によって変形量のばらつきの範囲を求める方法を考案した。半正定値計画法とは、行列の固有値と呼ばれる量を制約して最適化を行う方法。寒野講師は構造物の固有振動数を設計するのに適用しているが、今回は構造物の変形量のばらつきの解析に用いた。具体的には、構造物を構成する柱の本数、位置、全体の高さなどは決まっていると仮定し、構造物に加わる力の大きさや向き・柱や梁の剛性がばらついたとき、構造物全体に生じる変形量のばらつきの範囲を1回の計算で得られるようにした。柱や梁の剛性および加わる力の大きさや向きがばらついたら、変形量もばらつくが、求めたい変形量は楕円形で取り囲んだ範囲内にすべて収まるように計算する。この楕円形の中から最も小さいものを選ぶのに最適化理論を使った。この方法だと、構造物を支える杭が打ち込まれた地盤の力学的性質のばらつきが及ぼす影響についても計算できるという。汎用性が高く、精度の高さ、計算コストの面でも有利なのが特徴だ。

 今回の手法は、構造物の安全検証に有効なツールになるが、変形量の分布すべてが範囲内に収まっていると解析された場合はいいが、それを超える場合があると判定したとき、設計を変える必要がある。どこをどのように変えればいいか、そこまではまだサポートしてないので、「こうしたところを付加して機能アップを図りたい」と寒野講師は話している。

ISTyくん