「情報理工実践プログラム」10月からメニューを強化
競争的資金によるソフト開発の教育的支援など
東大・東工大の院生参加の実践プロジェクトも好評

 大学院生を先導的ITスペシャリストとして育成することを目指したプロジェクト「情報理工実践プログラム」は、10月から企業技術者EP(Engineering Partner)の増員、創造アドバイザーCA(Creation Advisor)、競争的資金によるソフト開発の教育的側面の支援、人材育成還流の核となるTA(Teaching Assistant)の育成などメニューを強化する。

 情報理工実践プログラムは、文部科学省が全国6拠点で2006年度から4年計画で展開している「先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム」の1つで、東京大学(情報理工学系研究科)、東京工業大学、国立情報学研究所(NII)が連携し、日立、NEC、富士通研究所、三菱総研など企業7社の協力を得て2006年10月にスタートした。

情報理工実践プログラムの概要

 東大・東工大・NII連合の特徴は、教育機能とともに開発機能と創造性を発揮するシナリオを構成している点である。その目的を達成するために、東工大が「情報理工実践課程」のカリキュラムを設計してソフトウェア開発の基礎力を、NIIと東大は「情報理工実践工房」を設計し、NIIが開発力を、東大が創造力の育成と、大学院生がソフトウェアの基礎力、開発力、創造力を系統立てて身に付けられるように協力体制を敷いている。こうした仕組みによって、大学院生の中から、独創的なソフトウェアを開発できる「技術創造人材」と、ソフトウェア開発過程を設計できる「開発設計人材」の養成を目指している。

 東大の実践工房では、昨年10月のスタート直後から、Ruby関連、文献サーベイブログシステムなど3本のソフトウェア開発に着手し、短期集中でプロトタイプをまとめた。この3本を含めて開発中のソフトウェアは現在8本。同プログラムの実行とりまとめ役の竹内郁雄教授(創造情報学専攻)は、「おざなりの演習課題ではなく、実際に使えるニーズの高いソフトウェアを念頭に置き、教員、EP、学生提案のテーマから選んだ。学生の取り組み方は真剣勝負そのもの」と実効が上がっていることを強調する。また、東工大では多摩美術大と共同で、多摩美大を発注者と見立てて、システム開発の流れを体感するプロジェクトを実施。「発注する側、受注する側の意思の疎通を図るコミュニケーション力が重要で、これを磨くことが不可欠」という生きた情報を得ている。

情報理工実践工房の機能

 ソフトウェアの開発に当たって有効に機能し、潤滑剤の役割を果たしているのがEP。大学院生に対するソフトウェア開発の勘所や実践的な指導、アドバイスが好評で、コミュニケーションの面でも大きな効果がある。ただ、EPは現在3名しかいないため、「このメンバーで8本のソフトウェア開発をサポートするのは厳しい」とし、少なくとも2、3名の増員を図る考えだ。また、10月をメドに実践工房での創造的活動を支援するCAとして、ベンチャー系のクリエーターやマネージャーを招き、話題のソフトウェアや今後の動向などについて情報提供してもらうことにしている。CAは当面、3、4名を予定している。

 さらに、文部科学省の科学技術振興調整費など、他の競争的資金による、実践プログラムにはないメニューの研究用や独創的なソフトウェア開発を側面支援することも検討する。つまり、これらのソフトウェア開発に必要となる手法などについて、実践工房が教育的支援を行い、効率的な開発過程の形成を促す。すでに、東大・東工大の大学院生は、東大情報理工の秋葉原拠点に集まり、夏期、冬期5日間集中講義で基礎知識を獲得する座学から、実機教材を使ったノウハウの修得、実践まで行い、ソフトウェア開発に欠かせない実践ノウハウの修得に力を入れている。たとえば、HDレコーダーで予約録画を始めたら、途中で電源が突然遮断した。電源を再投入したら、その段階で正常動作に復帰するかなどを、双方の大学院生が混合グループをつくり、仕様設計とモデル検証を行った。

 来年以降、東大・東工大・NII連合の育成プロセスによって育ったTAが後輩を指導する、理想的な人材育成還流が機能するようになれば、実践プログラムが目標にしている技術創造人材、開発設計人材の育成事業は軌道に乗ることになる。「そこを目指して3者連合を強化していきたい」と竹内教授は語っている。

ISTyくん