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戦略ソフトウェアをつくる
(株)ゆんFactory 代表取締役 内田 友幸
(この文章は当日行われた講演内容を録音したテープからおこしたものです)
司会  それでは、最後のご講演になります。
 最後は日本でのベンチャー起業の若手の社長さんということで、ゆんFactory の内田友幸さんにお願いしております。内田さんは本学の情報系研究科情報工学専攻博士課程をとられました。在学中よりソフトウェアのベンチャーをはじめられまして、今、株式会社ですか。
内田  そうです。
司会  最初は違ったんですね?
内田  最初は有限会社です。
司会  最初は有限会社ゆんFactory でおはじめになりまして、今は株式会社ということで、大きな展開をされております。
 では、内田さん、よろしくお願いいたします。
内田

 まだ画面が出ていないようですので、簡単に弊社の紹介をしますと、在学中ということを今ご説明いただいんですけれども、ゆんFactory というのは今から8年前に私が在学中に起業しております。もともと、パソコン通信のニフティサーブというのが昔ございまして、そのときに私がフォーラムを運営していたんですね。趣味でそういうフリーソフトウェアをつくってフォーラムを運営していたところが、会員数が12万人くらい集まりまして、非常に盛り上がったと。そのときに、富士通様の方から「おもしろいことをやっているな。ちょっとビジネスに協力しろ」というオファーを受けまして、そのときに「富士通は個人にお金なんか払えないんだ。法人化しろ」と言われまして、当時、そういうものにも興味がありましたので、「わかりました。やってみます」といったのが起業のはじまりです。

                 〔映写開始〕
 最初のうちはどういうふうにやっていったらいいか全くわからない状態でスタートしていたんですが、こういうソフトがあるからつくってと言われて、「はい、つくります」というようなソフトウェア開発会社だったんですが、そのうちにITバブルが膨らみはじめまして、そういうのを見ていると、どうもアイデアだけのあやしい会社が非常に大金を集めて盛り上がっている。「何でうちがまじめにソフトウェアをつくって、技術もあるのに盛り上がらないんだろう」というところがありまして、それで「これはいかん。私もまじめにベンチャーをやらねば」ということで、99年ごろに本格的にベンチャーということで、それまで有限会社だったものを株式会社にしてスタートしました。というのが私の成り立ちです。
 最近は、セキヤメールシステムのPMPSというような技術商品もつくって、特許をとって、これは日経産業新聞の一面か何かを飾ったりもしたんですが、そういうことを開発したりしております。
 実は、この講演の後、あしたからアメリカに行って、マイクロソフトの本社に行って、そのソフトウェアを売り込みに行くという計画もあったりして、結構楽しいことをやっていたりします。
 それでは、はじめたいと思います。

◎目次クリックすると大きな画像が見られます。
 次第なんですが、今までは戦略ソフトウェアの技術的な側面というのを講演されていたんですが、ここでは少し視点を変えまして、ソフトウェアを取り巻く社会について考えたいというところで、「戦略ソフトウェアの一生」、それから「ベンチャーとは」−−そもそも私がやっているベンチャーというのはどういうものなのかということと、あと皆さんのうちでベンチャーをやってみようかなと思われている方について、こういう人は向くよということを説明したいなと思います。
 ちなみに、この中でベンチャーに興味がある人って、今、どのくらいいらっしゃいますか。
                (挙手 3名)
 ポツポツですね。そうですか、あまり興味ないですか。ただ、この講演を聞くと、興味が出てくるかもしれませんよ。

◎戦略ソフトウェアの一生クリックすると大きな画像が見られます。
 まず、戦略ソフトウェアの一生ということで、今までのご説明にあったような、技術のトレンドというのがありまして、そういう技術のトレンドを見ながら、世の中の流れを見ながらすると、こういうソフトウェアがあったらいいんじゃないかということが多分発案する。これが「1.発案」ですね。ひらめく。それをどうしたら実際につくれるものになるのだろうと練る。
 アイデアが固まって、こういうふうな動きをすればサービスは実現できるというのがわかったら、これをつくらなければいけない。「2.製造」、製造する、テストする。
 ものができても、それが使われないとしようがないですね。でも、それを使ってもらうためには、「3.プロモーション」をやらないといけない。プロモーションをして、ようやく商財になったところで、今度は「4.流通」という問題が発生します。こういうことをやって、ようやくアイデアが湧いたものが一般の人たちに届く、これが世の中の流れになるわけですが、これを見ていくと、1と2は技術者の仕事なんですね。より詳しく言うと、1は研究者、2は開発者なわけです。
 ところが、3と4は技術者ではできないんですね。もともとビジネスマンの仕事、つまり戦略ソフトウェアを考えるということは、半分はビジネスマンも考えないといけないということになります。要するに、戦略ソフトウェア全体を考えると半分が理系、半分が文系、そういうふうなイメージなんですね。
 ここにおられる方は技術系の方が多いと思うんですが、4のことを考えて1をやらないと、結局、1、2でとまってしまうんですね。多くのソフトウェア、例えば日本にも優秀な技術者はたくさんいて、優秀なアイデアはいっぱいあるんですが、世の中を見てみますと、きょう講演された方を見ても、マイクロソフトですし、サンマイクロさんですし、日本の会社が出てこない、そういう状態になってしまう。
 つまり、4があってはじめて1が生きてくるんだという視点でソフトウェアをつくっていくことを考えないと、せっかくいい1をやっても4までいかないということになってしまう。なので、まずエンドリリースイメージを持つのはとても大切であろうというのが、私の視点から見るとあります。
 多分、3つの方向性があって、商品にする、オープンソフトにする、そもそも一般にはリリースしない−−こういうものを考えて、ソフトウェアを考えていただきたいというのがあります。

◎社会参加の形態クリックすると大きな画像が見られます。
 では、後半の部分のどういう社会参加形態でリリースをねらうのか、具体的にどういうふうにしたらいいのかというと、多分、3種類あるんだろうと思います。
 1つ目が私がやっているベンチャーですね。それから、大企業の社員、それから研究者もしくはフリー、こういうような社会参加形態で先ほどの3、4の部分をやっていくことに具体的にはなると思うんですね。
 そのときに、この3種類にどういう違いがあるかというと、ベンチャーはやりたいことができて、莫大な資産を築くことができる。ただ、これは技術だけがわかっていてもだめ、社会的に強力な支援者を得ないとだめなので、結構難しいことは難しいですね。
 大企業社員になると、上司に気に入られれば−−ここ、ポイントなんですけど、気に入られればプロジェクトとして不安なく進めることができる。会社がさらにそれで本気になってくれれば成功する確率も高い。ただし、成功しても見返りはほとんどないです。ここがポイントですね。
 研究者、フリー、やりたいことができる。これもいいんですが、成功しても見返りは名誉以外特にないというのが社会参加形態の特徴でございます。
 この講演ではそのうちベンチャーというのはどういうものかというのを説明したいと思います。

◎ITベンチャー業界の現状クリックすると大きな画像が見られます。
 今のITベンチャーは、先ほども言ったんですが、ネットバブルというのがありまして、結構、いい加減なことが99年から2000年にかけて行われて、アイデアだけのえせベンチャーがどんどん出てきて、どんどんつぶれて、大金が右から左に流れて、どこかに行っちゃった、そういうことがありました。
 今の風潮からいうと、「ITベンチャー、あやしい」というのが定評になってしまって非常に残念なんですけれども、実際にやっているものから見ると、これは一つのPCベースのインターネットビジネスの天井が見えたのかなと。これはもう第一ラウンド終了かなと思うんですが、それからITバブルがはじけてかなり悲惨な状況になっても残っている会社は残っていて、それでも着実に成功しているんですね。
 つまり、実体のある会社というのは一定の評価がある。こういうものからすると、マネーゲームがあったんですが、IT革命は今後も続いていくだろうというのが私の考えです。

◎ITベンチャー業界の展望クリックすると大きな画像が見られます。
 特に、実力派ベンチャーというところは非常に元気で、今も着実に伸びている。テーマもブロードバンド、セキュリティ、IPv 6など、どんどんテーマは出てきます。
 トレンドとしては「PCから情報家電へ」ということで、今までPCで考えていたものが、これからは携帯だとか、車だとか、そういうようなところで考えていく時代に入ったかなと思います。

◎ベンチャー創業の魅力
 ベンチャーを語るときにまずここに語らないとしようがないかなと思うんですが、なぜベンチャーを創業するの?というと、やっぱり一つの大いなる魅力は経済的自由を得る唯一の道というところですね。一般庶民に許された唯一の金持ちへの道ということであります。クリックすると大きな画像が見られます。
 ここに資産力、右下にグラフをつくったんですが、サラリーマンになると外資系の金融系を除くと、大体、生涯獲得賃金なんていうのはいっても3億円くらいにならないんですが、ビル・ゲーツさんになると非常に桁違いであると。ここまでいかないまでも、成功した創業者は一般に数千億円くらいの資産を有するわけですね。非常に魅惑的な世界がある。
 もう一つは、業界最先端の刺激的なところ。前例のないことしかやらない、非常にやりがいがあるところですよと。
 あとは、自分がつくった会社ですから、自分がすべてを決められる自由があるよというところがあります。現実には、株主様との関係もあって、完全に自由にはならないですけれども、そういう自由があります。

◎IPOによる莫大な価値の発生クリックすると大きな画像が見られます。
 なぜそういうお金が発生するのかなというと、株式公開などを行うと、莫大に価値が増大する瞬間があるんですね。例えば、8000株発行済の会社が新株を1000株発行します。そうすると、1株300万円になりました。もともと額面が5万円だったものが、例えば1株300万なんていうと、桁が2つも上がってしまうわけです。そうすると、創業者が持っている時価総額というのはいっぺんに2桁大きくなるわけですね。要するに、会社に例えば1000万くらい入れておけば、それは周りの人から見ると10億円になったねと言われるようなものですね。
 リアルにこういうことでお金を調達できます。この例でいうと、30億円市場から調達できるということになります。
 創業者の時価総額、例えば7000株持っていたら、300万で210億円ですよねということを言われる。「あなた、210億円持っていますね」と言われる。これは非常に興味深い、資本主義の一つのおもしろい仕組みであります。

◎ベンチャーの社会的価値クリックすると大きな画像が見られます。
 こういうことばかり言っていると、「なんだ、ベンチャーというのは金の亡者か」とよく言われてしまうんですが、そうではないんです。
 実は、ベンチャーには非常に重要な役割というのがあって、ここに3つ挙げています。1つは「新分野の開拓を担い、社会の新陳代謝を促進させる」。
 既存の枠組みでは対処できない社会現象を事業として経済原理にのせて、より速く、より魅力的な形にして社会に提供していく、そういうことがベンチャーの一つの価値になります。
 日本は、あまりそういうベンチャーというのがここ数十年元気でなかったので、インターネット業界とかいっても非常に立ち遅れた状態になってきてしまっている。
 2点目、「技術の進歩の促進」。
 そういうような魅力的な世界があるもので、若くて実力のある人がどんどんベンチャーで頑張ったりすると、どんどん技術の革新が行われる。全体として、技術の促進が進歩される。多分、ベンチャーというものがいなければ、インターネットはこんなにもはやっていないはずなんです。それはシリコンバレーのベンチャーが次から次へと生まれて、次から次へと倒れていって、その中で勝ち残ったものがどんどん新しい技術をエクスパンドしてきた。そういう経緯があるので、インターネットがこんなにも便利に使いやすくなってきた。それを促進したのは、ベンチャーというシステムなわけです。
 もちろん、それに弊害がないということを言っているわけではないんですが、一つこういう強いところがあります。
 もう一つは「夢の提供」。
 アメリカドリームという言葉が心理的効果を裏付ける現実の形態を提供する。つまり、先ほども書いたんですが、金持ちになる唯一の道ということからすると、ベンチャーみたいな組織がなければ、庶民はいつまでも庶民のままだし、金持ちはいつまでも金持ちのままなんですが、ベンチャーというのがあるとそこに循環が起こってくる。
 そういうことがあると、「大企業の大企業による大企業のための社会」とか「学歴主義が社会に閉塞感をもたらして、人々の心の無気力、うつを誘っている」という状況がら抜け出すというきっかけを得られることができます。

◎ベンチャーの社会的貢献のイメージクリックすると大きな画像が見られます。
 イメージをここに並べたんですが、まず最初、左側の砂漠があるんですけれども、何もない、未開拓の分野が砂漠ですね。技術革新、社会の変遷により、未開拓の分野があちこちに出現します。既存の会社とか、システムですと、そういう砂漠をどうにか使ってやろうという人はあまり出てこないんですが、ベンチャーはそこの砂漠を緑の大地に変えてやるんだと、どんどん行くわけですね。
 その土壌に合うタネと栽培方法を必死になって検討する。これがうまくいきそうだというと、投資家に協力を依頼します。投資家はそのプランが正しいと思えば、必要な水をどんどん投入してくれる。タネと栽培方法が正しければ、すくすくと育ち、未開の分野に緑が生い茂ることになります。緑が生い茂ってくると、あちこちから人が押し寄せて、そこに産業と文化が花開くというようなことになります。
 では、ベンチャーがいなかったらどうなるの?というと、砂漠はいつまでも砂漠のまま、これはしようがないです。ところが、栄えているところというのは、実はどんどん硬直化して疲弊していくわけですね。そうすると、そのうちこの都市はスラムになってしまうんですね。世の中というのは、砂漠かスラムしかなくなってしまう。要するに、新陳代謝がないとそういう状態になってしまう。ベンチャーがいるとどんどん緑化して、新しいところを開いていく。これがベンチャーの位置付けになります。

◎資本主義の本質クリックすると大きな画像が見られます。
 今、少しずつ経済のことを言ってきたんですが、資本主義の本質というのがあって、実は日本もアメリカも資本主義という経済原則に基づいてつくられているシステムです。なので、必ずこういうルールが成り立ちます。
 まず、企業経済には4種類の人しかいないというふうに書いています。
 企業経済、アカデミカルな分野というのは、実は企業経済ではないのでこれは別なんですが、会社に所属したりすると、企業経済に入ってきます。そうすると、4種類しかいないんですね。投資家とビジネスオーナーと自営業者と労働者。この4種類に必ず分類できます。
 おもしろいのが、それぞれにはそれぞれしか通用しないルールがある。例えば、良いものをつくるためには全力を傾けるとか、頑張ることは美徳とか、こういうのは労働者階層のルールになるので、ほかの階層はそういうルールでは全く成り立たない。イメージすると、例えば芸術家に「頑張ることは美徳だろう?」といっても、芸術家は「はあ?」って言いますね。要するに、芸術家は日がな一日寝ていてもいいんです。ある日、インスピレーションが湧いて、それが最高だったら、それを何か形にして、発表する。これが芸術家のルールなんですが、そういう人に向かって、「君、頑張っていないからだめだよね」と言っても成り立たないわけですね。つまり、頑張ることは美徳とか、そういう一般的に言われているようなことが成り立たない世界が芸術家以外にも企業経済にもいろいろとありますよということです。
 この下がポイントなんですが、「企業経済で生きるのであれば、どの階層で自己実現を図るかを今の時点で明確に持たないといけない」、これは一つのナレッジです。
 要するに、「どこになるだろう、私、労働者でいいや」となるのか、「いや、俺は絶対投資家になるんだ」というのだったら、それぞれ道が違うわけなので、必ずどれかに所属しないといけない。どれになったら自分が一番幸せなのかというのを今のうちに考えないといけないということになります。

◎経済面から見た日本社会と社会的影響力クリックすると大きな画像が見られます。
 これは経済面から見た日本社会と社会的影響力の図になっていますが、この大きいところが企業活動になります。アカデミカルな世界というのは経済的にいうと10兆円くらいかなと。それに対して企業活動50兆円ですから、非常に差があります。
 多くのここにおられる方はアカデミカルな分野なので、この辺の細い三角形のどこかにおられるわけですが、これから企業活動にいきますよといったときには、このでかい三角形のどこかに所属して、どう推移していくかということを考えていかないといけない。
 ベンチャーというのは、どういう存在かというと、産業構造が変化すると、それに伴ってひび割れがばかでかい三角形に入ってくる。この間にスルスルスルと入ってのぼっていく存在、これがベンチャーになります。
 この絵をよくみていくと、このでかい三角形は上の方に「大企業」というのがどんといって、その下に子会社、系列となって、下に中小企業とあります。実際は、ほとんどが世の中は中小企業で占められているんですが、わかりやすくするためにこういう図になっていますが、日本というのは大企業に占領された国というイメージがあります。これは一般社会から見るとそれが非常に顕著であります。
 ここでイヤなことが書いてあって、「理系限界」なんていう悪い言葉が使われているんですが(笑)、一般に大企業に理系職で入ってしまうと、そのまま理系でいこうとするとどうしてもどこかに限界が来ます。それはなぜかというと、左下に書いてあるんですけれども、理系の分野で発生する価値というのは、スケーラビリティがあまりないんですね。なので、一人の人が生み出せる価値が10までだとすると、どんなに頑張っても10までしかいかない。中には、青色発光ダイオードを発明した中村さんのように、一人でもいくつもいっちゃう人もいるんですけれども、多くの場合、10くらいしかいかないので、そうなるとそこら辺が頭打ちになってしまう。
 ところが、文系の人たちというのは、そういう人たちを例えば100人まとめてうまく運営したりすると、それだけで価値がボロボロ出てきてしまうわけなんです。なので、そこで差が出てきてしまう。
 理系の人は一人で頑張る、一人の頭で頑張ることになるんですが、文系の人たちは人をまとめてどう動かすということを使えるので、スケーラビリティがあるんですね。そうなってくると、どう考えても出せる成果というところで差が出てしまうので、理系限界というのは生じるということになります。
 理系の人は社長になれないのかというと、そういうわけではなくて、そういう人は何をしているかというとジョブチェンジを行っています。途中で理系職種から文系職種にシフトするわけですね。それでうまくやっていくので、これが不利であるというわけではないのですが、理系だけで純粋にいくというのは難しいよという図になっています。

◎日本におけるベンチャークリックすると大きな画像が見られます。
 日本でベンチャーをやっていると、非常にいろいろな障害に遭います。
 一つは、「硬直した利権構造」というのがあります。
 それはなぜかというと、日本の社会というのは「オヤジのオヤジによるオヤジのための社会」というのがカッチリできていて、利権構造がしっかりできているので、なかなか良いものを評価しない、もしくはできない。新しい価値創造の仕組みをつくれない。出る杭を打つというのを非常に感じます。
 「深みのない若者(刺激に条件反射するだけの人間)」
 若い人に仕事を頼んだりするとなかなかうまくいかないんですね。なぜかというと、これらの問題がある。
 最近、非常に直面にしているのは「知的作業ができない社会人(能動的に動けない)」
 こういう人が多くて、仕事がすべて他人事。それから、本当のことを言われるとうつ病になる(笑)。自分のことを自分で決められない。
 これ、非常に深刻な問題で、ある超一流大企業の重役の方とも話したりするんですが、非常にこれは問題だと。特に2番目の「本当のことを言われるとうつ病になる」、これ、今非常に問題になっていて、日本国内にうつ病になる人が今750万人くらいいるらしいんですね。非常に問題であると。
 こういうことになってしまっているので、良いものをつくってもビジネスとして回せない、人を雇っても足手まといになるだけで使えない、日本にこだわっていたらベンチャーとして成功することはかなり難易度が高いということを日々感じるわけです。

◎日本におけるベンチャー2クリックすると大きな画像が見られます。
 IT業界に限っていうとどうかというと、「立ち遅れたIT基本技術」。
 IT分野で期待ができるのは携帯電話、ゲームマシン、これは割とサービスレイヤーの部分で書いているんですが、そういう部分だけである。多くの基本技術はアメリカで開発され、アメリカで商品化されるというところが非常に弱いなと思っています。
 ほかにも、アジアに流出するIT製造部門というのがあって、ソフトウェアをつくる部分だけでもとっておけばいいなと思うんですが、今、韓国とか中国とか、そっちの方がソフトウェアは品質がいいし、圧倒的に安いんですね。
 例えば、うちの会社も、パートナー企業が韓国とか中国とかタイとかいるわけなんです。なぜかというと、日本でつくるよりも安くていいものができるからなんですね。そうすると、下の方で空洞化が進んで、先端部分が立ち遅れているので、10年後を考えると非常に厳しいのではないかというのが私の危機感です。
 だから、日本の中で閉じこもらずに、常に海外に目を向けているというところが非常に重要かなと感じます。

◎ベンチャーの難易度クリックすると大きな画像が見られます。
 続いて、ベンチャーの難易度。
 ベンチャーはいろいろ言ってきたのですが、難しいのかなというんですが、適性があれは、私からすると簡単なんですね。世の中に2種類の人しかいない。ここに参考文献があるんですけれども、「仕事ができる人」と「仕事ができない人」の2つしかいないんですね。詳しくはこの本(『ガルシアへの手紙』エルバート・ハバート)を読んでいただけるといいかなと思うんですが、この2つしかいない。

◎ベンチャーの適性
 図にあらわすとどうかというと、こうなります。
 「社会における各人の価値創造の度合いとその人数の分布」があります。横軸が生産する価値で、これはヒストグラムになっているんですが、大体、知的労働に人々を雇用すると、大体、こういう分布にはまります。そうすると、大多数の人が非常に損益分解点の向こう側にいってしまうんですね。非常に困るんですけれども、あっち側にいってしまう。少数の優秀な人が全体を支えるというところですね。クリックすると大きな画像が見られます。
 多分、労働集約のときはそんなことはなくて、例えば工場でラインで何か機械が流れてきて、それを組み立てますという人の場合は、生産量なんて差はないんです。みんな均一されてよかった。
 ところが、単純作業のものというのはコンピュータを使ってどんどんできるようになってきてしまう。そうすると、知的なことを生み出せる量というものが非常に問われる。この分布の分散が非常に大きくなって二分化してしまう。これはどの組織にいっても、必ずこうなっています。なので、この図は覚えておいて損はないと思います。

◎価値基準とベンチャーの適性クリックすると大きな画像が見られます。
 もう一つ、価値基準とベンチャーの適性ということで、世の中、いろいろな価値基準の持ち方というのがあるんですが、自己の外部寄りか、自己の内部寄りかというところでまず線が引けるのかなと思います。
 考え方としては価値基準が自分の内側にある人というのは、自分の内側にあるので、ほかの人が何を言うかというのはあまり関係ないですね。自分が楽しいからやる、自分がやりたいからやるというということができるので、そうするとほかの人がやらないことをできる人というのは価値基準が自分の内側にありますよと。
 縦軸に、経済的自由の優先度。やはりお金があった方がいいよねというのが上の人で、人並みにあればいいというのは下側の人。そうすると、価値基準が自己の内側寄りの人はベンチャー向きなんですね。なおかつ、経済的自由の優先度が高い人は起業家向きというような分布があるかなと思います。

◎ベンチャーに向かない人の特徴クリックすると大きな画像が見られます。
 ベンチャーに向かない人の特徴としては、人生を自分のものと考えられない。つまり、自分が何だかよくわからないというのはやめた方がいい。
 あと、セルフコントロールができない。
 自分のモチベーションとかリソースの管理がうまくできない。例えば、愚痴をこぼしたり、言い訳をしたりする人というのはやめた方がいいですよと。
 あとは社会不適合な人、約束を守れない。約束は守りましょうというのができない人はやめた方がいいです。
 なぜこんなことを書くかというと、社員を雇用すると、大体、これに当てはまっちゃうんですね。非常に難しいなと最近感じているんですが、下にペーパーテストでいい点がとれることとこれらというのはあまり相関がないなと。なので、一流大学を出ていることというのはあまり関係ないんだなというのはここら辺からわかってきました。
 最後にイヤなことを書いているんですが、こういうことというのは自分では修正できないんですね。指摘するとうつ病になって、周囲に移す。これは非常にまずい(笑)。
 きょうはうつ病、うつ病ってあまり言いたくないんですけれども、うつ病って実は伝染病で周囲に移すんですよ。非常に危険な伝染病だなと私は思っていて、この人、うつ病になりそうだと思ったら、あまり変なことは言わないといいのかなと思ったりします。

◎企業からIPOまでの流れクリックすると大きな画像が見られます。
 経営者に必要なもの。
 「コミュニケーション能力」。この中でベンチャーの経営者もいいかなと思った人がいたら、これを見てほしいんですが、まずコミュニケーション能力。相手に言いたいことをしっかり伝える、それから相手の言いたいことを汲み取る。
 これは当たり前なんですけれども、あとは「人間的魅力」。この人のためだったら働いてもいいかなと思わせられる。
 「経営に対する知識」ですね。会計処理、税務処理、労働基準法、商習慣。
 最後は「不屈の闘志」。孤独の逆風の中でも決して折れることのない心ということですね。
 経営者になると一般に孤独になります。なぜ孤独になるかというと、一つは先ほど経済の中には4種類の人がいると書いたんですが、レイヤーが変わってしまうので、周りの人と話が通じなくなるんですね。なので孤独になってしまうんですね。孤独でも耐えられるという人でないとちょっとつらいかも。
 あと、「仮想敵」と書いてあるんですが、税務署とか労働基準監督署とか裏社会とか利権構造とか詐欺師。アカデミックな世界にいると全くノータッチでオッケーなところに、一つの社会的組織をつくるとこういうところと直接戦わないといけなくなってくる。特に、税務署というのは私はひどいなと思うんですが、会社の利益が出ると半分持っていかれるんですね。例えば、1年間、一生懸命働いて頑張って、1000万円の黒字になりましたというと、500万円くださいといって、払わないといけないという話になってしまう。払ったお金はこういう講堂にも使われたりするので(笑)、まあ、うちは明朗会計でやって、ちゃんとしっかり払ってはいるんですけれども、半分持っていくのはちょっとひどいなというのがあります。
 あと、労働基準監督署と書いているのは、日本をはじめ一般には労働者を守るためのシステムというのはかっちりでき上がっているので、すべての面で雇用側は弱いです。常に戦うと絶対に労働者が勝つようにシステムとしてつくられているので、絶対勝てないんですね。なので非常につらい戦いになってしまいます。ここら辺のところと戦わなければいけなくなるのはちょっとつらいなというのがあります。

◎ベンチャーのリスククリックすると大きな画像が見られます。
 今までベンチャーのことをいろいろ言ってきたんですが、「ベンチャーとはいっても、リスク高いじゃん」というようなことをよく言われるんですが、私からすると、一般の研究者、開発者の方がちょっとリスク高いなというふうに感じています。
 なぜかというと、いろいろ書いたんですが、「ベンチャー、安定性×」となっていますね。この「安定性×」というところが人を鍛えるんだと思うんです。つまり、安定性×だから、もう必死にやるわけですね。ミスしたら終わりですから、そのために背水の陣をやって、必死に何年もやるわけなので、温室に入って、ぬくぬくとやっている人に絶対勝てるようになるんです。なので、その間にどんどんスキルアップして、キャリアアップしちゃうんですね。この「安定×」というのが非常につらいなと感じるのか、それだから自分が鍛えられると思うのか、多分、ここに一つの基準があるかなと感じます。
 「安定性×」に耐えられて、かつ「さあ、チャレンジしよう」という人であれば、きっとベンチャーはこちらの方がリスクは低いと思います。

◎ベンチャーで成功するお勧めコースクリックすると大きな画像が見られます。
 成功するお勧めコースということで、皆さんがベンチャーとしてやるのであれば、次の利点があります。
 まず、最新テクノロジーの評価ができる。それから、ビジネスのシード、要するに新しい戦略ソフトウェアをつくることができる。それから、東大関係者というブランドがあります。
 ただ、技術的なことだけでベンチャーはできないので、コミュニケーション能力、人間的魅力、経営に対する知識が必要になる。ここら辺の部分はどこかベンチャーで勉強するといいのではないかというふうに考えていたりします。

◎ベンチャー適性まとめ
 まとめるとベンチャーはアグレッシブな生きざまだと。じっとしているのがイヤの人向きでございます。向く人は多分少ないと思うんですが、価値を生み出せる自信があれば、リスクがあってもやりたいと思う心があれば、ベンチャーをやった方が得ですよと。
 ベンチャーをやるに当たって、日本社会はつらいとか、労働監督署は怖いとかいろいろ言っているんですが、最終的な敵って、結局、自分にあるんだと。常に自分と戦いながら、上を目指す。自分と向き合い、自分の弱点を認め、長所を見出し、そこを集中して伸ばす。
 要するに、自分との戦いというものを延々とやっていく、そういうことを耐えられるのであれば、ベンチャーをやるといいですよというふうに言いたいなという感じでございます。以上です。ありがとうございました。(拍手)クリックすると大きな画像が見られます。

<質疑応答>
司会  内田さん、どうもありがとうございました。
 これも質問したい方、いらっしゃると思うんですけれども、いかがでしょう。
学生  内田さんは学生時代からビジネスとかベンチャーに興味がありましたか。僕自身がソーシャルベンチャーとかに関心があるので、学生が例えばベンチャーを立ち上げるとなったときに、学生特有の有利な点とか不利な点とか、もし考えている点があれば教えてください。
内田  学生のときは、ベンチャーとは何か、私、よくわからなかったです。なぜかというと、日本でベンチャーを教えてくれるところってどこもないんですよ。当時、MBAというのもメジャーじゃないですし、またMBAをとったからといって、本当にこういうベンチャーができるかといってもできないですね。
 そういう意味で、私が学生のころやっていたのは、ベンチャーではなくて、いわゆる製造業ですね。私は、それを「町のまんじゅう屋」と言っているんです。町のまんじゅう屋は何かというと、毎朝、主人が頑張ってまんじゅうを20セットくらいつくるわけです。そうすると、店をあけるといっぱい人が並んでいて、みんな「おいしい、おいしい」と食べてくれる。けれども、1日つくれるのは20セットしかない、そういう町の商店ですね。そういうことをやっていた。さっきの絵でいうと自営業者に当たります。そういう自営業者をやっていたので、それはベンチャーではないんですね、ある意味。
 そういう意味でいうと、私がやっていたのはベンチャーではなくて、今おっしゃっているのがベンチャーだとすると、私が学生時代やっていたのはベンチャーではなかったので、ちょっとずれているかなという気はします。
 学生ならではの特徴というと、学生は別に妻子がいるわけではないじゃないですか、多くの場合。なので、時間に余裕があるんですね。お金の価値にも非常に柔軟でいられるし、時間的にも余裕がある。これは新しいことをやろうというのに対して、非常にいい状態だと思うんですね。だから、強いところは何かというと、そういう捨て身になれるところ、先ほど説明したところの「リスクが高くてもいいや。いける」というところが学生の特徴だと思います。そこで頑張ってやってほしい。
 ただし、それは町のまんじゅう屋をやってあまり意味がないので、最初からベンチャーを目指していただきたい、やるのであれば。というのが私の考えです。
学生  ありがとうございました。
司会  よろしいでしょうか。では、ほかにいかがですか。平木先生。
平木  日本のベンチャーを見た場合に、例えばアメリカでよく見られるような、どこかの会社に売ることを目的とした経営をするというのがあまり見られないように感じるんですが、その辺は日本の特殊性というのがあるんでしょうか。
 最終的に技術をやっていく会社を大きくしたところで、例えばマイクロソフトさんに買ってもらって、それで自分は次の会社に行くというのが割と標準的なコースですね。日本ではそういうコースがあまり見られないように思うんですけれども。
内田  そうですね、あまり見られないですね。実は、今週末、アメリカに行くのはマイクロソフトにうちの会社を売りに行くんですけれども、うちもバイアウトをねらってはいるんですが、そういう意味でいうと日本の今までのベンチャーというのは先ほど言った町のまんじゅう屋モデルなんです。要するに、「俺、技術好きだ」と。技術で飯を食いたいんだというのからスタートしているので、会社が大きくなっても、「この会社、俺のものだから」と長く続けようとするんですよ。それはベンチャービジネスではないんですね。それは町のまんじゅう屋なんです、自営業者なんですね。
 ところが、アメリカの方はベンチャーなんです。ここが先ほどから言っている町のまんじゅう屋とベンチャーの違いなんですが、私の会社はベンチャーを目指しているので、当然、IPOというヘッドがあってもいいですし、バイアウト、要するにどこかの会社に売っ払うという道もあると思うんですね。それは全然アグリーだと思います。売っ払ったお金でどうするの?というと、それは投資家になってもいいですし、また新たなベンチャービジネスをスタートしてもいい。そういうようなのが本来のベンチャーのあるべき姿なんです。
 日本は、そういうものをだれも教えてこなかったし、そういうものがいいというふうに言われてこなかったので、そういうのが少なくて、みんな町のまんじゅう屋になってしまっていたというのが一つの問題なのかなと思います。
 なので、私としては「みんなベンチャーやろうよ」というのが言いたいです。そして「マイクロソフトさん、買ってください」(笑)。
司会  ほかにいかがでしょうか。
学生  資料の中に、『金持ち父さん貧乏父さん』のお話がありまして、僕も最近読んだんですけれども、アメリカの場合は経営に関するセンスを磨くために、企業を転職してまわってキャリアアップするというのがありますけれども、日本ではまだそれが難しいように思われますけれども、内田さんはどういう方法でキャリアを身につけたんですか。それはもう背水の陣で経営しながら学んでいったということなんでしょうか。
内田
 私の場合は、先ほど言ったように、学生からスタートしているので、捨て身からスタートできたというのが一つポイントだと思うんですね。キャリアアップをどうしてきたの?というと、私は自分の会社しか経験していないので、どういうふうにキャリアアップしてきたかというと、本当に自分で一から勉強する、世の中の「なんでこうなっているんだ? おかしいんじゃないか」ということを一生懸命考える。だから、自分でどんどんスキルアップしてきた。それはお客さんとの対話とか、仲間との対話の中で生まれてくるんですが、そういうところでスキルアップを私の場合はしました。
 けれども、おっしゃるように、アメリカの方とかいくとどんどん転職して、スキルアップするよというのがあると思うんですが、そういうことができる人というのは、先ほどのヒストグラムの図があって、大多数があまり使えない人だという図の中でいくと、右側の飛び抜けている人たちなんですね。飛び抜けている人たちというのは、実はどこの会社に行っても活躍できるんです。そういう人になれば、会社を転々とした方がいいんです、絶対、それは。
 問題は、どうやって最初にグラフの右側の方に行くんだ−−そこだけがポイントだと思うんです。それには、多分、何か自己啓発のポイントはどこかしらいると思います。それが何なのか、私もよくわからないですけれども、ある日、突然、何かやってくるんだと思うんですね、デキる人は。なるほど、こうなんだと。さっきのヒストグラムの図がわかるようになる瞬間がきっとくると思います。そうなったら、転職して、スキルアップするといい。日本でもいいと思います。
司会  どうもありがとうございます。ほかによろしいですか。
 では、内田さん、どうもありがとうございました。(拍手)

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