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戦略ソフトウェア創造人材養成プログラムの概要
戦略ソフトウェア創造人材養成プログラム運営委員長 平木 敬
(この文章は当日行われた講演内容を録音したテープからおこしたものです)
司会  田中先生、ありがとうございます。
 それでは、引き続きまして、本プログラム委員長でありますところのコンピュータ科学専攻の平木敬教授から『戦略ソフトウェア創造人材養成プログラムの概要』についてご報告させていただきたいと思います。
平木

 ご紹介いただきました戦略ソフトウェア人材養成プログラムの運営委員長をやっております平木です。
 きょうはこの場をお借りしまして、我々が一体どういう考え方で戦略ソフトウェアを創造するということを教育するのか、名前を考えますと、すごく大それた計画であるわけですけれども、それを具体的にどういうふうにとらえているのか、そのコースの内容は何であり、現在、これに加わっていただく方というのを募集しておりますので、その募集要綱などについて触れていきたいと思います。

◎戦略ソフトウェア創造人材養成プログラムの概要クリックすると大きな画像が見られます。
ちなみにバックに写っておりますのは、このプログラムのために我々が調達しました備品の数々で、サーバーですとか、ロボットですとか、PDSとかワイアレスとか、こういういろいろなものをフルに活用して、新しい時代の情報基盤をつくるというのが我々のねらいであります。

◎戦略ソフトウェア創造人材養成とは?
 さて、戦略ソフトウェア創造とは何かといいますと、戦略ソフトウェア−−すなわち戦略性を持っている。戦略性というのは、その時代の情報システムのあり方を決定するような重要な意味を持つソフトウェアを創造、それをつくり出す能力を持ち、それを開発する能力を持つという人を人材養成する。
 大学院というところは、残念ながら、こういう人を育てるところではありませんで、将来、研究者になり論文を書く人を育てるのが大学院の本義であるわけですから、その目的が違うのを、やはり違う構成の人材養成ユニットでやろうというのが我々の意図であり、それを開設しているわけです。

◎なぜ、今、戦略ソフトウェア創造かクリックすると大きな画像が見られます。
 それでは、なぜ、今、戦略ソフトウェアを創造するということを扱わなければいけないかということですね。もともと、文部科学省の科学技術振興調整費の人材養成というときに、バイオインフォマテックスと基盤ソフトウェアが二大重要テーマであったということは、我々だけではなくて文部科学省の方々も戦略的なソフトウェアの重要性ということにようやっと気がついてきたというふうに我々は考えているわけです。
 背景としましては、もう少し後で申しますけれども、計算機というのが現在のこの姿、例えば今ここで私が使っていますように、ここにノートパソコンがあって、ここにはワイアレスのLANが入っていまして、ディスプレーがありまして、キーボートがあって、マウスがあって、ソフトウェアが動いている。この姿というのは、実は非常に今日的なもので、10年前も、10年後もこういう姿では計算機をつくらないわけです。
 そうしますと、計算機のあり方というのは、時代時代で変わっていくときに、「今」というのは、特に大きな変化がある時期であると。ですから、その時期こそ新しい戦略ソフトウェアを出すにふさわしい時期ではないかというのが一つのモチベーションなわけです。
 また、我々というよりは、むしろマスコミからの主な意見ですが、なぜか情報システム基盤分野において、日本の競争力が低下していると。日本はアプリケーションやゲームでは非常に強いんですけれども、一番基盤の情報の分野では残念ながら地位が低下している。アメリカに比較して地位が低下しているのみならず、いわゆるアジアのほかの国々に対しても、地位が低下しつつあるという指摘というのはあるわけです。確かに、日本発の戦略ソフトウェアというものはますます近年減少しているといっても差し支えないかと思うわけです。
 こういう背景をもとに、これを何とかするというのか教育の目的であるわけです。ところが、現在、日本の主流を占めています情報教育というのはどういうものであるかといいますと、これは皆様、ある程度年配の方は記憶にあると思うんですけれども、約25年前、1975年に通産省が「ソフトウェアを書く人が足りなくなる」と。銀行も商店も企業もどこもソフトウェアを使うようになりますと、ソフトウェアを書く人は指数関数的に増えることが必要であり、このままいくと西暦2000年にはソフトウェアを書く人が足りないおかげで日本はピンチに立ち至るという理論が構築されたわけです。これがいわゆる量的ソフトウェア理論というわけですけれども、それにこたえて、全国のほとんどすべての大学に「情報××」という学科がつくられたわけです。東大でも情報工学専攻、情報科学専攻というものがつくられたのがこの考えに基づいているわけです。
 実際、量的な充足はかなってきたわけですけれども、しかし2つの結論がそこからあるわけです。1つは、「来る、来る」と言っていた西暦2000年のソフトウェア危機は来なかったんですね。それはなぜかといいますと、実は良いソフトウェアがあったら、世の中が良いソフトウェアに合わせる。ですから、世の中の多様性に合わせてソフトウェアを書く人がたくさんいる必要はない。むしろ、すべての世の中で使えるような重要なソフトウェアを書く人の方が大事であるということがありまして、ソフトウェア危機は来なかったわけです。
 もう一つは、そういう量的教育は残念ながら、今言った上の背景を解決するような教育には不十分であるということがわかりつつあったわけです。先ほど田中研究科長から紹介がありましたように、東京大学でも75年体制をようやっと去年解消しまして、新しい、より質的な向上を目指す情報理工学研究科ができたというのはその背景にあるわけです。こういう背景を受けて、戦略ソフトウェアの少数の非常に優れた人を教育するということが現在問われていて、それが大学の責務ではないかというのが、この授業をはじめるに至った理由であるわけです。

◎情報システム利用の歴史クリックすると大きな画像が見られます。
 ここから先ちょっと急ぎますけれども、情報システムというのは、実は時代時代で全く異なる使われ方をしてきたわけです。ですから、戦略性を考えるときに、将来、今から10年後にどういう計算機があるかわかっていれば、その人は金持ちになれるわけですが、ちょっと置いておきまして、過去を見るのが早い方法なわけです。
 最初の戦略的情報危機というのは、向こう側にありますホレリス統計機で、これは人口統計処理をするという当時の一番大事なテーマを扱うのに十分であった機械であり、非常に普及し、使われたものなわけです。もちろん、このホレリス統計機というのが今日のIBMという会社の基礎をなしているわけです。
 こちら側では、マンチェスターMARK−1という、世界で最初の電子計算機なわけですけれども、人が筆算では解けない方程式を解きたいという願いがこれをつくったわけで、方程式の求解をするというプログラムが最も戦略性のあるプログラムとしてこの時代では用いられていたわけです。

◎情報システム利用の歴史(2)クリックすると大きな画像が見られます。
 時代が遡りまして近年にいきまして、やや最近にいきますと、例えばメインフレームとスーパーコンピュータの時代が非常に長く続いていたわけです。メインフレームでは、いわゆる古典的なデータベースと、トランザクション処理を使うことによりまして、データを非常に大きい表としてまとめ、例えば銀行ですとか、企業の計算ができるようになり、そのときの一番戦略性のあるものというのはデータベースシステムだったわけです。
 一方、スーパーコンピュータは、いわゆるシミュレーションの計算機の中で実際には実験をしなくても、実験をできたようなことをするということがようやっと可能になった。このCDCのスーパーコンピュータというのは、第1世代のスーパーコンピュータですけれども、そこでは高級言語、例えばフォートランなり、PL1というようなものが戦略的なものであったわけです。

◎情報システム利用の歴史(3)クリックすると大きな画像が見られます。

 時代がどんどん現在にいきますと、あるとき、計算機はビットマップとマウスがなければいけないということを言った偉大な人がいました。それがアルトマンですけれども、LANによって、例えばリレーションのデータベースを使い、トランザクション処理をし……というような、今日に非常に近いパラダイムというものがこの時代に生まれ、それからはここにありますようなビットマップディスプレーに対するオブジェクト志向の計算パラダイムというものが戦略性を持つものであったと。
 科学技術計算の方は、さらにベクトルマシンとして、それが進化していったわけです。

◎情報システム利用の今(4)−ITクリックすると大きな画像が見られます。
 では、現在は何かといいますと、現在の時代というのはインターネットによって電子処理を行い、例えばデータマイニングや文書理解ができるとともに、主にWeb やメールや個人認証というものを、情報を集め検索するという手段に用いている。それができるようなシステムになったわけです。
 そこにありますように、ノートパソコンですとか、携帯ですとか、それのプラス非常に大きいサーバーが裏に隠れ、その裏にはさらにギガビットネットワークのような速いもの、又はクラスターというようなデータ処理専門のものがあるというのが、今日の計算機をつくっていったわけです。
 ですから、今日の戦略的なものというのは、こういうような姿で計算機を使うということが仮定されているわけです。

◎2002年の情報システムクリックすると大きな画像が見られます。
 我々は2002年のレガシーな情報環境として、ディスプレー、キーボート、マウスを持ったPCがネットワークを介してつながっていると。アイコンベースのビットマップディスプレーでメニューをクリックすると何かが起こる。こういうような世界観が今の我々の情報システムに対する世界観であり、それに対してインターネットですとか、商取引、政府、マルチメディア、いろいろなキラーアプリケーションというものが開発されてきたわけです。
 ここで強調したいのは、これは今なのであって、人材養成を今からやる場合にはこういうものをターゲットにしては話にならない。むしろ、次の戦略ソフトウェアが何であるかということを真剣に取り込むことこそがこの人材養成ユニットの大きな役割ではないかというふうに我々は考えているわけです。

◎コンピュータ速度クリックすると大きな画像が見られます。
 例えば、これはコンピュータの速度というものをグラフにしたもので、私はこのグラフを1994年から使っているんですけれども、10年近くたってもまだのっていますので、結構、自分でも正確だなと思っているんですけれども、今、一番速い計算機は東大の天文が持っておりますGRAPE−6の48TELOPSであり、普通の計算機で一番速いのは地球シミュレーターの40TELOPSである。
 プロセッサ・チップは、それに対して、そんなに速くはならないで、今、一番速いのがPentium 4の2.8ギガ、ないしはアイテニアム2というようなものであるわけで、こういうふうにどんどん速くなっていくわけです。
 これは非常に重要なことを意味しているわけで、将来のことを考えても、もちろん今から例えば2050年になりますと、人間と同じだけの速さのコンピュータが登場すると、このグラフは物語っているわけなんですけれども、むしろ過去のことを考えてみまして、今の例えばマイクロソフトさんがいらっしゃいますので、ウインドウズを使いまして、インターネットエクスプーラーを使っているという姿が今から10年前の計算機でやっていた。どうするかといったら、クリックして、5分くらい何も起こらないんですね。次にクリックして、5分くらい……、だれもそんなものは使わないわけです。クリックすると大きな画像が見られます。
 ですから、戦略性を決めるものは計算機の性能であるということがこのグラフと今のソフトウェアを昔の計算機で使ったらということが考えられるわけです。我々が、今、次の戦略性を考えるときは、今のものではなくて、その次の世代、ですから、このグラフからもうどのくらいのターゲットかすぐにわかりますね。そこでやるには何が必要であるかということを考えなければいけない。
 それと同時に、ネットワークの速度というものも急速に速くなってきて、先ほどのカーブと比べますと、実はこちらの方がより急速に速くなっていっているわけで、現在、ようやっと10ギガbpsのEthenet が出てきて、100ギガが見えてきたという時代が来たときに、これをどう使うかということは非常に大きな問題であり、次の戦略性を決める問題であるというふうに考えているわけです。

◎情報システムの時代区分クリックすると大きな画像が見られます。
 こう考えていきますと、一番最初の「新しい時代」といったことの説明がここに出てくるわけで、実は過去の方をみていきますと、今いいましたように、10年ごとに計算機というのは画期的に性能が速くなっている。そのために、大体、10年ごとに一つの時代というものがやってくるわけです。
 最初は、例えばLANを利用して、古典的なデータベースを使っている時代がありました。WANを使って、リレーションのデータベースの時代がありました。Eメールをしたりしたわけです。Eメールやニュースというものがはやっていた時代がありました。
 次の、今いる我々はインターネットを使い、Web を使い、データをテータマイニングするという利用の仕方をするという時代がやってきて、非常に便利になり、世の中を変える力を持ちはじめたわけです。
 しかし、それは次の10年ではないわけです。次の10年は必ず違うものである。その次がまた違うものであり、その次がまた違うものであるというふうにして、戦略性が10年交替でいくことによって世の中は変わっていく、それを手助けしたいというのが我々の基本概念であるわけです。

◎ちょっと横道へ:キラーアプリはだれがつくったか?クリックすると大きな画像が見られます。
 というような抽象的な話はちょっと何ですので、少し横道にそれまして、我々が今まで見てきたものは、どういう人たちが何年くらいに開発したかというのをこのシンポジウムのために調べまして、表にしたものです。
 例えば、ウインドウとマウスというのは、今はやっていますけれども、一番最初の提案は1964年にEngelbart がやったもので、プロトタイプをつくったわけです。
 BASICというのは1964年に、教育用に大きい計算機でできて、マイクロプロセッサようにはTiny BASICですと、ビル・ゲーツのGW−BASICというようなものが75年くらいに出てきて、今日まで発展してきたわけです。
 DOSは75年にできてから、81年にMS−DOSが出てくるまで発展を続けていったわけです。
 ワープロというものは76年に出てきて、79年に最初の非常に有名なWord Star という商品が出てきた。日本にとって一番重要なインパクトがあったのは、仮名漢字変換というものの実用化で、実はこれは九大の栗原先生が1966年に提案し、東芝の森さん、河田さんらがワープロとして1978年に実用化したわけです。
 スプレッドシートというものは、これは今日のビジネスアプリケーションで最も重要なもののわけですけれども、1979年に出てきて、Software Arts という会社でつくっている。
より新しい時代では、例えばブラウザはCERNで1991年にhttpの概念を発表し、Marc Andreessen が1993年にそれをモザイクという形で今日のWeb というものをつくってきたわけです。
 きょうはサンがいらっしゃっていますので、Javaも取り上げますけれども、Javaという言語はもともとは1991年にOak という言語から発展し、Oak という言語は実際には情報家電用に開発したものだったわけですけれども、それを一般のWeb の遠隔実行の言語として1995年と。
 こうやってきますと、今日の戦略性を持っているキーワードというのが、実は戦略性が出てくるかなり前、10年20年前に提案者がいて、それから開発者がいて、それからそれを商業化する人がいるという、3つの段階があるということがこの中からみてとれるわけです。
 よく人材養成をやるといいますと、「早く日本のビル・ゲーツをつくってくれよ」という話を聞くわけですけれども、この中にもビルゲーツの名前がありますから、そういうものはつくれるわけですけれども、実はここに紫色で書いてあるように、ある将来を決めるような重要な概念を組み込んだソフトウェアを最初につくる人をつくりたい、これが我々の人材養成のターゲットであるということをまずは理解していただきたい。ですから、ここを出たら、すぐにソフトウェアの企業をつくって金持ちになれるかといったら、そういうことではなくて、むしろ10年後に、だれかほかの人が金持ちになる素地をつくるような重要なアプリケーションをつくっていくことこそが、戦略ソフトウェアを創造することである。これが我々がユニットをつくったときの基本的な考え方であるわけです。

◎さらに横道 コンピュータゲームはだれがつくったか?
 これはついでにもっと横道にそれまして、実は日本発の一番重要なキラーアプリケーションはゲームと今日言われています。世界をプレステ2は席巻し、XBox も出てきたわけですけれども、そのソフトウェアの多くは日本でできているわけです。
 実際は、これは逆でありまして、新しい概念はすべてアメリカで最初あったわけです。テニスゲーム、コンピュータゲーム、特にオデッセイというゲーム機は非常に重要な概念の提示があったわけですけれども、全然売れませんで、ファミコンに至ってはじめてそれがいくようになった。これは戦略ソフトウェアというものと製品が結びつくことがいかに重要であるかということを示しているわけです。ですから、そういった意味での「戦略性のソフトウェア」というのも我々のターゲットに入っているわけです。

◎情報パラダイムの次をつくるもの
 言いましたように、我々は情報パラダイムの次をつくりたいので、次の新しい能力のハードウェアを使い、ソフトウェアを使い、I/Oデバイスを使うということを想定して我々のカリキュラムをつくったつもりです。この辺についてはいろいろご意見をいただきたいと思います。

◎人材養成ユニットの目的クリックすると大きな画像が見られます。
 この目的は、先ほど田中先生がおっしゃいましたように、我が国から戦略ソフトウェアを提案していくのだと。それを提案できる人を育てるために少数教育をする、これが我々の今言いたいこと、すべてであるわけです。

◎戦略ソフトウェア創造者の要件
 これも田中先生がおっしゃいましたが、それをやるためにはさまざまな論文を書く以外のことを教えなければそれはできないと考え、そういう教育コースをつくったわけです。

◎戦略ソフトウェア人材養成の基本構図
 養成の対象は、そういったものですので、我々は商売人を育てようというわけではありませんので、ある程度プログラムが書け、情報又は情報理工学というものを知っている人が対象ですので、博士の後期課程の学生か、または博士を取得後、博士研究員としてこのプログラムに従事していただきたい。もちろん、場合によっては修士課程の学生も含めることも考えています。クリックすると大きな画像が見られます。
 従事するわけですから、食うのに困りますので、我々がその分だけ給料を提供しましょうと。博士研究員の場合にはPDとしての給料を、博士後期課程の場合にはほかのところでソフトウェアを書くアルバイトをする時間があったら、戦略ソフトウェアのことに携わってほしいということから、給料をある程度支払うというシステムを考えました。
 最初の対象分野としては、次の10年で重要になるであろうと我々が勝手に考えた3つの分野でありますデペンダブル情報処理分野、大域移動分散システム分野、認識行動システム分野−−これは実際にはロボティックスなんですけれども、3つを選びまして、これを重点的に教育したい。
 養成コースは2年間でありまして、1年間でまず基本的な力、文筆力というものをつくり、2年目に何かものをつくるというコースを非常に密な指導体制のもとにOJTをすることによって実現し、「なるほど、あなたは戦略ソフトウェアをつくった」と先生方が認めた段階で修了試験をし、認定書を出す。
 これはすごく手間のかかることをやろうとしていますので、毎学年をとるということは無理です。たった1学年、各分野2名、合計6名を育て上げ、5年間で24名を戦略ソフトウェアを創造するようなプロジェクトのプロジェクトリーダーのレベルに育てたいというのが我々の基本構図であるわけです。

◎人材養成カリキュラムクリックすると大きな画像が見られます。

 これを実現するためのカリキュラムとしまして、もちろん実験という創造課題はありますけれども、その前のまず素養をつける段階としましては、3つのことを我々は行っています。
 1つが講義で、例えば戦略ソフトウェア特論。ここでは、戦略ソフトウェアがどういうものであり、どういうことを考えなければいけないかということを扱うわけです。それから、今日の戦略性に切っても切れない並列分散プログラミング、リアルタイムシステムというようなものも講義で扱っていくわけです。
 それと同時に、実際のプログラムを書くという技術を伝授するためには、講義という形式では無理ですので、セミナーという形でソフトウェアの開発実践セミナー又はソフトウェア演習というようなものを行っていくわけです。
 さらに、よりトピカルな話題を扱うためにはフォーラムという形式のものを実施しまして、アプリケーションの中でシステムを考え、ディペンダブルコンピューターというのはどういうものであるかということを考える。この3つのシステムによってまず基礎的な力を養い、さらにあと1年ではソフトウェアの創作課題を何をやるかということを選ぶことからはじめて、1年かけてデモンストレーションレベルまでこぎ着けて、それを世の中に出していくということを我々はカリキュラムとして考えているわけです。

◎戦略ソフトウェア創造のための設備クリックすると大きな画像が見られます。
 それを実施するために、新たに大きいSMPと並列計算機、ワイアレスの通信環境、ヒューマノイドというものを我々は設備しまして、このコースに入った人は非常に自由に使って創造ができるという環境を提供できるようになっています。
 一番向こうにありますのが、72CPUのSUNのSMPシステムで、これは今日ではスーパーコンピュータと言われるものであるわけですけれども、先ほどのグラフを見て明らかなように、今から10年後のシステムというのは、これがノートパソコンになっているわけですね。ですから、これをあたかも自分一人の計算機のように使うようなソフトウェアということを見ないと、その戦略性のあるものができないということから、こういう速い計算機を設備したわけです。
 それを伝えるためにも、今日、一番速いネットワークこそが次世代のごく普通のネットワークであるということから、基幹ネットワークとしてギガビットネットワークを中心とした、非常に力の強いネットワークを備え、さらにワイアレスをつけ、情報理工学系研究科のどこにいても50メガの通信バンド幅でPDAやノートPCが使えると。さらに、そこから自由に、ここにありますヒューマノイドを使って、ヒューマノイドのソフトウェア開発ができるというような環境を使ったわけです。
 ですから、皆さんがもしここに応募して採用された場合には、これらの機器及び情報理工学系研究科が持っているそのほかの機器を自由に使って、戦略ソフトウェアを創造するということを考えていただきたいわけです。

◎戦略ソフトウェア創造人材養成ユニット体制図クリックすると大きな画像が見られます。
 今までの情報理工学系研究科は、専攻の下に連携講座があったものに対して、さらに戦略ソフトウェア創造人材養成ユニットという専任教官−−東大ではそれを特任教官と言っているわけですけれども、その特任教官と専攻からの先生が一体となった共通のユニットとしてそれを置き、そこが戦略ソフトウェアの人材の養成に関しては責任を持って遂行するという体制になっているわけです。

◎戦略ソフトウェア課題分野の詳細
 デペンダブル、大域移動分散、認識行動という3つの分野があったので、少しその内容にいきます。
 かつては壊れない計算機、月に行っても壊れない計算機をつくることがデペンダブル計算機だったわけですけれども、今日ではデペンダビリティを阻害するほとんどすべての要因がソフトウェア又はソフトウェアとソフトウェアの影響にあると考えられているわけです。ですから、そういうことが決して起こらなくて、我々が実際にお金を預け、命を預けても大丈夫なような計算機をつくり上げるというのがデペンダブルコンピュータなわけです。
 冗談みたいな話ですけれども、例えばさすがに私は1日1回とまるノートPCに命を預けたいと思わないわけですね。そこで命を預けられるようなものをつくるというのは、現在、まだすごく高くハードルがあるし、それは解決すべき問題だと思ってこれを選んだわけです。クリックすると大きな画像が見られます。
 2番目の大域移動分散システムというのは、ワイアレスネットワークと超高速のネットワークが計算機よりも速い率で早くなってきたわけです。それを使うことによって、今まで考えられなかった使用形態が可能になってくるわけです。
 後で出てきます、認識行動システムもその一環に入っているわけですけれども、それをつくる基盤ソフトウェアというのは、残念ながら今日のオペレーティングシステムは、それを満たすようなものではないわけで、それを満たすようなものにそれをどうやって発展させていくかというのは大きな課題があるし、それを使ってこんなにおいしいんですよということを提示することこそが、それこそ戦略性というふうに考えているわけです。
 3番目の認識行動システムというのは、次の世代、あと100倍、1000倍、計算機が速くなって何をするかといったら、それはものを認識し、それに基づいて行動するシステムが実現するレベルに達すると能力的には考えられるわけで、それをやるためにヒューマノイド又は自分で学習するソフトウェアというようなものを扱うことによって、今までと違った情報と人間のあり方というものを考えていき、そこにおける戦略性というものを追求したいと考えているわけです。

◎人材養成ユニット担当教官
 ですから、これを担当する教官は、我々のように情報理工学系研究科からユニットに兼任する教官と専任教官−−特任教官という12名の方々、それから3つの企業から来てきます客員の教官、それからさらに戦略性を持った人を呼んできて、直接話を聞く。すごくおもしろいと思いますし、意味があると思いますので、その4つを組み合わせて教育を行っていきたい。
 ということで、今、スタートしたところですので、皆様の応援と応募をお願いしたいわけです。

◎アンケートの回答からクリックすると大きな画像が見られます。
 このシンポジウムをするに当たりまして、さまざまな会社にアンケートを出しました。ここにあります16の質問のあるアンケートで、現在、回答が返ってくる途中ですので、中間結果ですので全部を示すことはできませんけれども、その結果から少しフィードバックを見てみたいと思います。
 これは、我々がつくりました"学生"という商品を受け取っていただく企業さんたちはどういうことを考えているかということを知りたいと思ったわけです。その中で、特に、「大学、大学院のソフトウェア専門教育に対する希望、不満はありますか」とか、「外国と日本で教育効果に差がありますか」とか、「日本は後追いが多いと言われますけれども、本当に後追いが多いと思いますか」というような項目について質問してみたわけです。

◎後追いについてクリックすると大きな画像が見られます。
 例えば、後追いについては、23%の方は「後追いが多いとは思わなかった」と。これは、例えば「ゲームとかナビゲーションというようなものは日本が得意とする分野であるから、ほかのところでは負けてもここがあればいいんだ」というようなことであったわけです。「基礎研究は自社ではしていないけれども、開発はやっているから大丈夫だ」というところもあったわけです。
 残念ながら、しかし多くのところは後追いが多い。後追いに関しても、別にすべてが否定的なものではありませんで、「戦略上、後追いの方がコストが低いから、後追いをするケースが多いだけ」、これは非常にうなずける意見なわけです。
 また、先ほど言いましたように、戦略を提示した人は、実は半分以上の人は金持ちになっていないわけで、その発想を受け継いで実用化することこそが重要だという考え方をおっしゃられる方もいました。また、「日本人は実用化の能力が高いので、後追いが多いのは非常にいいことだ」というご意見もありました。
 否定的なのは、「戦略的にはいいけれども、最近はそうではないことも多い」とか、「よいアイデアが出てこない」とか「ソフトは特にいかん」とか、次は教育に関係していますけれども、「言われたことしかやらないようではだめだ」とか「そもそも均一的な人が社会に受け入れられやすい」というような否定的な見方もありました。これについては、今からもっと細かく分析を進めていきたいというふうに考えています。

◎海外の教育との比較クリックすると大きな画像が見られます。
 海外の教育の比較に関しては、アメリカ、インド、中国、シンガポールの方々が企業で実際に働いている場合と比較したもので、残念ながら「日本は教育内容が乏しくて、学生の勉学意欲が低い」というご意見もありました。また、「学生の自主性、自立性に雲泥の差がある」というご意見もありました。「日本ではビジネスニーズにこたえられる基礎演習が行われない」というご意見もありました。「日本は会社で教育しないと使えない」というご意見もありました。
 これはすべて真剣な意見として、我々は受け取って、この人材養成では、こういうことが少なくとも起こらない、ここにあるものの逆さのもの、多分それが望まれている姿というふうに思えますので、それを追求したいというふうに考えているわけです。

◎ソフトウェア専門教育に対する希望クリックすると大きな画像が見られます。
 さらに、ソフトウェアの専門教育に対しては、ここにありますように「もっとしっかりしろ」というような教育についてのご意見が多かったわけです。
 ただ、これは中間結果ですので、最終的にアンケートが集まった段階で、もう一度それをWeb ページを通じて公表したいと思っておりますので、よろしくお願いしたいと思います。

◎ソフトウェア系の専門教育に望むこと
 ソフトウェアの専門教育に望むこととしましては、産業界の講師がソフトウェア工学を教えてほしい。これは我々もそう思っていますし、先ほどから私の言っていることにもそれは含まれているわけです。クリックすると大きな画像が見られます。
 あと以下ありますが、本人材養成というのは大学院講座ではありませんで、講師の選定、プログラムの選び方が非常に自由にできます。ですから、その自由さを生かして、こういうことを取り入れて、積極的に取り組んでいきたいというふうに考えております。

◎2002年募集要綱
 さて、時間も残り少なくなってきましたので、ことしの募集要綱です。
 募集要綱の締め切りがもうすぐあって、急な話で申しわけないんですけれども、ことしは大学院生、博士後期課程の学生又は修士の学生とポスドクというものを集めます。特に、東京大学の大学院ではないところの学生でもオッケーです。これに参加する人には給料を支払います。合計6名とります。養成期間は1〜2年ですけれども、1年たってだめだったら、「残念ながら君はだめだったね」と言う予定です。

◎募集分野
 募集分野は、ここにあります3つの分野を中心に考えていきますけれども、もちろん意欲のある応募者の分野に十分沿って考える余地を考えております。
 応募の方法は9月27日までにWeb ページにあります応募用紙とここにありますような履歴書、証明書等をつけて提出してください。書類選考を行った後に、電子メールで一次審査結果をお知らせします。面接は10月11日の17時から20時と書いてありますが、何時になるかわからないんですけれども、そこで面接試験をするとともに、今まで自分がつくったプログラムは何であるかということをデモンストレーションを通じ、プレゼンテーションを通じ、アピールしてほしいと思います。それをもとに「これならいけるかな」というので10月16日にWeb ページ上で発表するとともに、電子メールで連絡します。連絡先は私のところです。大体、このところ、1日数件ずつ問い合わせをいただいておりますので、かなりの方が積極的に参加したいと考えていらっしゃるのではないかというふうに我々は考えております。

◎まとめクリックすると大きな画像が見られます。
 まとめとしまして、我々は戦略ソフトウェア創造人材養成ユニットというものをつくりまして、専任教官が12名で、毎年6名ずつ教育をする。教官よりも学生の方が少ないんですね。専任教官だけではなくて、兼担教官、企業の連携講座の人、外国や日本の中から優れたソフトウェアをつくった人を短期に招聘して、総合した教育を行います。
 我が国から戦略ソフトウェアを発信し、それを標準化するということが目標である、大体こういう考え方でやっておりますので、よろしくお願いいたします。以上です。(拍手)

<質疑応答>
司会  平木先生、どうもありがとうございました。
 時間も迫っておりますが、せっかくの機会でございますし、若い方もたくさんいらっしゃいますので、平木先生に対して本プログラムに関する質問がございましたら、どうぞ。
学生  私は博士課程の学生なんですけれども、このプログラムに参加した場合に、普通に課程で行っている研究とかとの兼ね合いというのがきっと問題になると思うんですが、そのことについてはどうお考えなんでしょうか。
平木  それについては、博士課程の目的というのは博士課程の人を育てることにあると。もちろん、それを目指しています。それを達成するか、しないかは、あなたにかかっているわけです(笑)。だから、私はこれはできると思っていますし、十分、博士の論文を書き、しかも情報系ですと何かソフトウェアをつくるわけですね。論文を書いたら、多くの人が捨てるわけです。それはもったいない。博士がとれるほどのソフトウェアを外に出せるまで磨くということを考えていらっしゃるのでしたら、このコースは非常に貢献すると思います。
司会  よろしいでしょうか。
 では、ほかにどなたかございませんか。細かい質問がたくさんあるかと思いますので、メールとか、あるいはオフラインで会場の外ででも平木先生や私どもをつかまえてくださればと思います。
平木  どこでもメールを見ていますので、来たらあっと言う間に返事がいきますので、どうぞよろしくお願いします(笑)。
司会  戦略ソフトウェアのボスらしいご意見だったと思います。
 それでは、平木先生、どうもありがとうございました。(拍手)
 予定どおり進行しておりますので、16時から3件のご講演をすることにいたします。

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