20世紀後半の計算機技術・通信技術の急速な進展により、情報システムは人手では全く不可能だった大量のデータを入手・蓄積し、詳細に解析、その結果を利用できる潜在能力を持つに至った。また、通信技術の著しい発展に支えられたインターネットとワイヤレスネットワークの出現は分散的な情報の利用を可能とし、社会システムを変革しうるまでの影響力を持ち始めた。今後その歩を緩めずこの能力の伸長を継続すれば、近未来に社会全体が情報技術から享受しうる恩恵は莫大なものとなるであろう。しかしながら、現在の情報環境ではその潜在能力を十分に発揮し、利用することは困難である。実際、現状の情報システムは使い難く、信頼できず、セキュリティに欠け、永続性を持たない。
これら現在の情報システムが持つ問題点を解消し、真に人類と共棲する情報システムを作り上げるためには、それらを実現するための鍵となる戦略的ソフトウェアと、それを実際に構築するソフトウェアの創造力に富んだ、非常に優れた人材を得ることが不可欠である。
戦略ソフトウェア創造人材養成プログラムでは、情報流通の道具、巨大データベース、科学技術計算から認識し行動する情報システムまでの広い適応分野にわたって万人が利用できるソフトウェアを創造する人材養成を行う。対象分野のソフトウェアは、近未来的に最も重要な情報システム分野である、@ディペンダブル情報環境、A大域移動分散システム、B認識行動システム、の3分野である。
このような戦略ソフトウェアを創造できる人材は、情報科学技術の基礎分野の素養、卓越した戦略の着眼力に加え、品質が高く高効率なソフトウェアを著作するためのプログラミング的意味合いでの文筆力を併せ持つことが求められる。今回募集する人材養成プログラム参加者は、情報理工学に関する研究の場とソフトウェア創造の場を密に結合する教育プログラムを受講することにより、真に創造的であり、かつ情報システムを活用するための基礎力を会得することが期待される。
1.応募資格
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プログラムの対象者は、大学院学生(特に博士後期課程の学生が望ましいが、修士課程の学生も認める)及び、ポスドク(博士号取得者)である。 |
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プログラム参加者には、資格に応じて、研究支援員または博士研究員としての給与が参加期間中支払われる。 |
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所属大学院は、東京大学大学院に限定しない。 |
2.予定採用人数
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下記の3個の戦略ソフトウェア分野において各々約2名、合計約6名 |
3.養成期間
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平成17年1月より平成18年3月まで |
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開始の半年後及び1年半後に参加資格の再審査を行う。 |
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戦略ソフトウェアの提出をもって、人材養成プログラムの修了とする。 |
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プログラム修了後は、認定証を交付するとともに、作成した戦略ソフトウェアを公開するなどの機会を提供する。 |
4.人材養成プログラムの分野及び内容
戦略ソフトウェア創造における人材養成プログラムは、以下の3戦略ソフトウェア分野において行われる。
@ ディペンダブル情報環境
ディペンダブル情報システムの分野では、ディペンダブル情報システムソフトウェアが戦略ソフトウェア創造の対象である。具体的には、ソフトウェアにデペンダビリティを与えるため、システム安全性・信頼性向上をめざすソフトウェアを対象とする。特に、分散オブジェクト技術を基盤としてユビキタス系とサーバ系の双方に適用されるシステム技術を得ることが大きなテーマである。また、低信頼性ソフトウェアを用いたディペンダブル環境の構築もひとつのテーマとなる。
A 大域移動分散システム
大域移動分散システム分野では、新世代超高速インターネットおよびワイヤレスネットワークを介して情報と情報処理を個々の計算機システムから解放し、仮想化することにより、人間生活に密着した情報家電的環境から、非常に高い情報処理能力を持つ広がりを持った計算環境までを実現するとともに、個々の情報処理ハードウェアに囚われない永続性を持ち、信頼できる情報インフラストラクチャを与えるソフトウェアを対象とする。
また、ユーザから見たときの、大域移動分散システムは、無数の計算コンポーネントの寄せ集めではなく、これら計算コンポーネントが一つの実体としての幻影をあたえるものでなければならない。例えば、WWWを利用しているユーザには、WWW全体がある程度一体化して見える。しかし実際には、非能率さが目立つネットワーク・アクセスパス、クライアントサーバーモデルが主流の柔軟性のない計算モデルなど、古いアーキテクチャが馬脚をあらわす。さらにマルチメディア・データフォーマットの不整合、未熟な自然言語インターフェイスなど、優れたヒューマンインターフェイスを兼ね備えるべき大域移動分散システムには程遠い状態である。WWWが提供している情報環境を大域移動分散システムに近づけるヒューマンインターラクションを体系的にデザインし、自然言語の技術を取り入れるソフトウェアが対象である。
B 認識行動システム
21世紀に人間と機械が幸福な共存関係を持つためには、機械はさらに人間に近付くよう求められる。すでに人間型ロボットが日本発の大きな話題になっているが、概念的にはまだ初歩に過ぎない。未来の機械は、あたかも一個の個性と人格と感情を備えた人間のように振舞い、人間の顔・姿を持ち、ユーザと音声言語で対話し、表情を変える。人間の機能は、多様な五感センサと高度に学習した統合処理によって外界を認識する「認識系」、知的な思考や感情を持つ「思考感情系」、そして身体を巧みに制御して目的を実行する「行動系」に分けて考えることができるが、機械にも同様な機能を統合的に持たせなければならない。本テーマでは、メカとAIの間を充実させ、パターン情報処理などを中心に据えて人間の認識・行動システムを理工学的・統合的に捉え、同時に、外面的な意味での人格や個性の実現、自動獲得、表出なども扱う。従来のハードウェアとしてのロボットと、ソフトウェアとしてのエージェントの概念を区別せず、実現形態によらない人格と個性を持つ複合体の実現を目指す。
人材養成プログラムは、上記の3分野において下記の実験科目及び戦略ソフトウェア創造課題を通して、行われる。
(1)実験科目
実験科目は、指導者とマンツーマンに近い環境でソフトウェア実験を行う。人材養成プログラムの参加者全員が半年毎のローテーションにより全戦略ソフトウェア分野における実験を経験し、戦略ソフトウェア分野に共通の創作作法を体得することを目的とする。
(ア)移動分散ソフトウェア演習
(イ)認識学習ソフトウェア演習
(ウ)システムソフトウェア実験
(2)戦略ソフトウェア創造課題
戦略ソフトウェア創造課題では、上記戦略ソフトウェア分野の何れかの大規模ソフトウェアを構築する。
これらの実験科目や戦略ソフトウェア創造課題の遂行にあたっては、下記の機材を使用できる環境を提供する。
・ノートPC (無線LAN付属)
・共有メモリコンピュータ(Sun Fire 15000, 72CPU, 288GB メモリ)
・大規模ストレージ
・ヒューマノイド (富士通 HOAP-1)
・ギガビットネットワーク
5.応募方法
応募を希望する場合には、下記の@〜Dの書面をまとめ、下記の事務局に平成16年12月6日(月)から12月10日(金)までの間に郵送にて提出すること。(期間内必着。)
@ |
本文書末尾の応募申請書: 1通 |
A |
大学入学以降の学歴、職歴が全て記載されている履歴書: 1通 |
B |
大学学部の卒業証明書、成績証明書。大学院修士課程の学位証明書、成績証明書。博士号を取得している場合には、博士号の写し:
各1通 |
C |
戦略ソフトウェア創造に対する興味、考え方、応募にあたっての抱負を書いた書面: 1通(A4用紙
1ページ) |
D |
これまでの研究歴と開発してきたソフトウェアについてまとめたもの: 1通(A4用紙 1ページ) |
注: |
Cについては,合格後にWEBページ等を通じて公開する可能性があるので、非公開を希望する部分がある場合には、その部分を明示すること。 |
書類郵送先
〒113-8656 文京区本郷 7-3-1
東京大学大学院情報理工学系研究科
戦略ソフトウェア創造人材養成プログラム募集担当事務局宛
TEL: 03-5841-8602
6.選考方法
(1) |
書類審査
審査結果は平成16年12月14日に電子メールにて連絡する。 |
(2) |
面接及び自作プログラムのデモ
平成16年12月21日 17:00〜20:00 |
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面接及び自作プログラムのデモに関する詳細は、書類審査の結果とともに連絡する。 |
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最終選考結果は、平成16年12月22日に、電子メールにて連絡する。 |
7.問合せ先
内容などに関する問合せは、下記宛てにE-mailにてお願い致します。
東京大学大学院情報理工学系研究科
戦略ソフトウェア創造人材養成プログラム運営委員長
平木 敬
E-mail: hiraki@is.s.u-tokyo.ac.jp
戦略ソフトウェア創造人材養成プログラム応募申請書 →【HTML】【PDF】
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