高齢者が参加できるプラチナ社会の構築を
小宮山前総長、日本の課題解決へシナリオ
情報処理学会創立50周年記念大会で講演

 三菱総合研究所の小宮山宏理事長(東京大学総長顧問、前総長)は、情報処理学会創立50周年記念全国大会(3月11日)で「課題先進国から課題解決先進国へ」をテーマに講演した。理事長が強調したのは、日本のこれまでの国家モデルからの転換で、「国が主導して産業を振興すれば、GDPが増えて市民の暮らしがよくなる」という従来のモデルから、「市民主導で暮らしをよくしようとすれば、新しい産業が誕生してGDPが増え、国際競争力もつく。この方向にカジを切る必要がある」とし、その具体的な構想として『プラチナ構想ネットワーク』を提唱した。

 小宮山理事長は、21世紀のパラダイムとして「爆発する知識」「有限の地球」「高齢化社会」の3つを上げ、この中から新しい産業が生まれてくると指摘した。有限の地球の中心となるのは温暖化問題で、これはエネルギー資源、物質資源と一体化して捉えるべきであり、これを解決するには「エネルギー効率を3倍、再生(非化石系)エネルギーを2倍、物質循環システムの構築」の3点がその答えとした。中でも最も重要なのが、化石燃料に代わる原子力、太陽、風力などの再生エネルギーではなく、エネルギー効率の向上、つまり、エネルギー消費をいかに抑えるかがカギと位置づけた。

 CO2を平均25%、30%削減するといっても、どの産業分野でも可能というわけではなく、自動車などイノベーションの起きる分野に負荷をかけることが達成への道と説く。日本の場合、モノづくりに45%、日々の暮らし(家庭とオフィスと輸送)で55%のエネルギーを消費している。ここに注目し、理事長は「25%削減はできる」という東大を中心とする専門家チームが詳細に行ったデータを示した。

 それによると、住宅/オフィスで6%、輸送で6%、つまり、日々の暮らしで12%、モノづくりで3%、この2つで15%削減が可能。エコハウス、バリアフリーインフラ、省エネ家電、省エネリフォームやエコカーへの早期移行を進めれば、日本のモノづくり力を高め、国際競争力向上という戦略も成り立つ。そして、原子力発電の稼働率を改善し、バイオマスなどによる発電・送電によって5%、農業・森林で5%、鉄鋼、セメント、紙パルプ、鉄道などのCDMで5%達成すれば、トータル30%削減はできると数値目標を掲げて主張した。

 CO2問題は新しい需要を生みだす、イノベーションの宝庫と捉えるべきとし、需要を普及型と創造型の2つに分けて議論すると、日本を含めた先進国では車や家など人工物は普及、飽和し、別の新しい需要の創造に迫られている。高効率給湯システムやLED照明など新たに生まれつつある需要も見えているが、目標を明確に決めれば、高齢社会に不可欠な製品群をはじめ、モノづくり力が生きる市場を立ち上げることができる。これが21世紀を生きる日本の道としている。高齢化は地球温暖化に次いですぐに到来する、人類がチャレンジしなければならない大きな課題であり、課題先進国日本の最大の課題とした。

 高齢社会では、介護システムを用意するのはもちろんのことだが、高齢者が社会とかかわり続ける支援策を充実することが重要である。そのためには、たとえば、筋力が弱ってきたら、簡単に装着するだけで歩けるロボットスーツなど、高齢者の行動をサポートするシステムや技術が不可欠と強調。日本が真に力を発揮できるのは、総合力を生かせる「シルバー・イノベーション」の推進にあり、国が主導して産業を振興するのではなく、市民主導で暮らしをよくしようという方向にベクトルを合わせて新しい産業を興す。これこそ先進国モデルで、その具体化ビジョンが「プラチナ構想ネットワーク」と提唱した。エコで高齢者が社会に参加でき、雇用も確保したプラチナ都市を全国主要都市にそれぞれの地域性という特徴を生かしてつくり、これら都市同士がネットワークを組み、大学・研究機関のネットワークや、海外姉妹都市とのネットワークといった重層構造によって構成するもので、今秋ごろから具体的な行動を開始したいという計画を明らかにした。

 理事長は「CO2を25%削減するといったら、産業が大変だ、ここが悪くなるといった後ろ向きの議論が多かったが、その議論はもう止めよう。私たちには、こうやれば前に進める、うまくいけるというシナリオが1つあればいいんです。こうやればうまくいく、それを探すことが最も重要なとき」と結論づけた。

ISTyくん