21世紀COE「情報科学技術戦略コア」
5年のプロジェクト成果まとまる
実世界に密着した情報学の創造に布石

21世紀COE「情報科学技術戦略コア」 東京大学情報理工学系研究科が中心となり、5年にわたって推進している21世紀COEプログラム「情報科学技術戦略コア」の成果の骨子がまとまった。9月末、本郷キャンパスで開かれたシンポジウムで明らかにされた。情報科学技術戦略コアは、21世紀の情報科学技術の確立を目指したもので、今年度で最終年度を迎えるが、戦略コアヘッドクォーター統括の平木敬教授は「多様な分野の融合的な研究環境ができ、COE拠点としての道筋ができた。実世界に密着した情報学の創造に布石を打つマイルストーン」と総括した。

 情報科学技術戦略コアは、情報科学、数理工学、情報通信、機械工学という幅広い分野の研究を融合して21世紀の情報学体系の確立と、未来の情報理工学の教育研究を戦略的に先導する体制整備を目標としている。そのために「実世界情報システム」、「大域ディペンダブル情報基盤」、「超ロバスト計算原理」の3サブプロジェクトを推進し、これらを融合して単独分野では得られない新しい研究分野の創出と人材教育を旗印にして取り組んだ。

 その結果、実世界情報システムプロジェクトでは未来のリビングルームの姿を、大域ディペンダブル情報基盤プロジェクトでは安全でディペンダブルなユビキタスネットワークを、そして、超ロバスト計算原理プロジェクトでは外乱から計算を守るという、それぞれの方向性を具体的に示す世界レベルの顕著な成果群に結びつけた。研究内容だけでなく、専攻間の交流、ポスドク、外部研究者間の交流を活発化させ、教育振興についても予想以上の効果を上げた。これらを踏まえて、21世紀の情報学の確立と教育研究拠点づくりに生かしていく考え。

 このCOEプログラムは、2002年度から2006年度までの5年にわたり、情報理工学系研究科が中核となり、工学系研究科精密機械工学専攻も参加して実施している。情報理工学系研究科の各専攻は、3サブプロジェクトの目的を実現に導くために、分野を横断する形で研究を展開し、外部研究者の協力も得て多くの成果を上げた。特筆すべき点は、その成果の一部を発展させて、ヒューマノイドロボットが人に歩み寄り、少子高齢社会において積極的に人の活動をサポートする「IRTプロジェクト」(本ホームページ9月1日付既報)を立ち上げたことである。これは東大と異業種の企業7社が連携して進める10年に及ぶ挑戦的なプロジェクトで、文部科学省の科学技術振興調整費「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成」プログラムのもとで今年7月にスタートした。

 情報科学技術戦略コアの3サブプロジェクトの目的などは次のとおり。

実世界情報システムプロジェクト
  人間、ヒューマノイド、情報エージェント、ユビキタスアプライアンスが共棲する実世界情報学環境を構築するのが目的で、来るべきユビキタス社会は、人間とシステムが新しいインタラクション機能をもつ関係になるとイメージした。そのために、ヒューマノイド、VRシステムなど多数のシステム要素を統合化し、それを踏まえて情報システムと人間との新しい関わり、例えば、未来のリビングルームを示すことで実世界情報システムの将来像を明らかにしていく。知能機械情報学、システム情報学、創造情報学の各専攻の教員が担当している。

大域ディペンダブル情報基盤プロジェクト
  社会が真に依存できる大域的かつ個別的な新しい情報インフラの提供、あるいは、情報インフラの未来像を提供する役割を担っている。コンピュータ科学、システム情報学、電子情報学、創造情報学の各専攻の教員が参加し、電子政府、防災ネット、遠隔教育、遠隔医療など広範に応用できる情報技術の開発を目指している。すでに、インターネットなどに接続されているサーバーにウイルスが侵入するのを防ぐセーフティーネット構築の見通しを得ている。

超ロバスト計算原理プロジェクト
  数値計算の誤差、機械の故障、通信の際の雑音、人的ミスなどは、外乱によって起きるが、このような外乱に対して強い計算法を確立するのがロバスト計算。コンピュータが突然フリーズするとか、わけのわからない動きをしてデータが壊れたりするのは、外乱に対する備えが十分でないために起きるもので、この研究は、先の実世界情報システム、大域ディペンダブル情報基盤の両プロジェクトを陰で支える重要な領域である。数理情報学、コンピュータ科学、システム情報学などの各専攻の教員が協力し、多くの個別ロバスト計算技術にわたって、共通に観察される横断的原理を探した結果、5つの計算原理を抽出した。外乱による計算の不安定性に直面したときに対処する有力なマニュアルになると注目されている。

ISTyくん