21世紀COE「情報科学技術戦略コア」


21世紀COE「超ロバスト計算原理プロジェクト」ロバストモデル化セミナー
複雑ネットワークの科学(講師:増田直紀 氏)
生物学におけるネットワークとスケールフリー性(講師:有田正規 助教授)


日時:2006年3月7日(火)午前10時から午後4時まで
場所:工学部6号館セミナー室A(3階)


スモールワールドネットワークやスケールフリーネットワークなどの複雑ネットワークに関する理論的および実験的研究が、ここ数年活発化しています(たとえば、最近のレビューとして、杉峰他:「複雑ネットワーク理論とその応用」、科学(岩波書店)、3月号、2006)。このセミナーでは、複雑ネットワークに関する先端的研究をされている増田直紀氏(理研)、有田正規助教授(東大)に、御自身の研究も含めて、この分野の研究の現状や最新の動向についてお話いただきます。ぜひ御参加下さい。

合原一幸
連絡先:03-5452-6691


日時:2006年3月7日(火)午前10時〜12時
題目:複雑ネットワークの科学
講師:増田直紀 氏
   (独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)

概要:

 個体間の相互作用が問題とされる諸分野において、元来は完全グラフ、ランダム・グラフ、正方格子などの簡単なグラフが現実の代替物として用いられてきた。しかし、実世界の大規模グラフのデータが近年になって充実し、スモールワールド性、スケールフリー性など実ネットワークが持つ特性が明らかにされてきた。対応するネットワーク・モデルの提案がなされた1998〜1999年以来、複雑ネットワークの研究が世界中で盛んであり、分野の裾野も大きく広がっている。本発表では、理論の立場からこの分野の研究動向をレビューしつつ、研究紹介を行う。

 ネットワーク研究は、大まかに構造の研究と機能の研究にわけると見通しがよい。私自身の研究内容については、構造については閾値モデルと呼ばれるスケールフリー・ネットワークの生成とその応用について紹介する。

 機能については、ネットワーク上のダイナミクスに焦点をしぼり、ランダム・ウォーク、じゃんけん型競争ダイナミクス、自己組織的臨界現象などについて紹介する。いずれの場合も、複雑ネットワークを考慮することによって、臨界点の消失、過渡応答の統計についてなど古典ネットワークとは異なる結果が導かれ、現実世界との対応が議論される。

 分野の萌芽期から8年。複雑ネットワークは、日本ではここ数年で注目され始めつつあるといってよいが、世界の研究の地平はさらに先へ横へと進んでいる。現在までの研究成果、動向に立脚して今後の研究の方向性にも触れるつもりである。


日時:2006年3月7日(火)午後2時〜4時
題目:生物学におけるネットワークとスケールフリー性
講師:有田正規 助教授
   (東京大学 大学院新領域創成科学研究科 情報生命科学専攻,JSTさきがけ21)

概要:

 一般に「辺の接続数に対する頂点の数がべき分布をなす」という条件を満たすグラフはスケールフリー(SF)といわれる[1]。この定義に基づくと、インターネットのみならず、映画俳優の共演関係、論文の共著者関係、生物学で研究されるほとんどのネットワークSFネットワークであるとされる。しかしそもそもSF性とは縮尺(スケール)に依存しないという意味であるから、ネットワークに当てはめた場合、辺の接続数の縮尺をどのように変化させても共通したグラフ構造が見えるべきと考えられる。しかしこの特徴は上の条件だけからは導かれない[2]。

 そもそも、代謝やシグナル伝達と呼ばれる生体ネットワークは複数の生体分子が関与する反応で占められ、単純なグラフ構造では表現できない。多対多の関係を一対一のグラフ構造に変換する際の戦略によって、SF性やスモールワールド(SW)性といったトポロジカルな性質も変わりうる。インターネットや共演関係に見られるような性質を生体内ネットワークでも議論するには以下の作業を再考する必要があるだろう。

・ネットワークのSF性についての正しい定義
・応用先に依存した生体ネットワークのグラフへの変換法

参考文献:

1. Barabasi, A.-L., Oltvai, Z. N. Nat Rev Genet 5, 101-113 (2004)
2. Li, L. et al. Arxiv:cond-mat/0501169 (2005)


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